ロサリオ・ヴァレーの環境と気候ロサリオ・ヴァレーは産地名で言うとサン・アントニオ・ヴァレー内の一部になりますが、私たちの畑は北にサン・アントニオ・ヴァレー、南にカサブランカ・ヴァレーという2つの産地のちょうど境界に位置しています。畑は太平洋からわずか13-19km、標高260mの場所にあり、南極から北上する冷たいフンボルト海流の影響を強く受けます。海に近い区画ほど気温が低く風も強く、例えばソーヴィニヨン・ブランは内陸部より10-15日ほど遅れて成熟します。地中海性気候で、年間降水量は約400mm、主に冬に雨が降るため、10月から5月の乾季には灌漑が欠かせません。この乾燥した環境は病害の発生を抑える効果もあり、バイオダイナミック農法には理想的です。醸造家への道のり私の家系は何世代にも亘っていわゆるミッション種(パイス)を栽培していて、子どもの頃から食卓にワインがありました。祖父は正式な訓練を受けたわけではありませんでしたが、家族のためにワインを造っていて、それはとても素朴で自然な造り方でした。ワイン造りは私のDNAに刻まれていたのです。チリで醸造に携わるには、まずは学校で農学を学ぶ必要があります。私は大学で農業の学位を取得し、ブドウ栽培と醸造を研究しました。卒業後は国内外の収穫期に参加し経験を積みたいと思っていましたが、ちょうどその頃、アメリカのキングストン家がチリでワイナリーを立ち上げ、カリフォルニア式のワイン造りを習得する人材を探していたので、私はその奨学制度に参加、主にナパのピノ・ノワール生産者のためにブドウの破砕処理を手掛けるコンサルタントの下で18か月働きました。それは素晴らしい経験でした。帰国後の2001年、マテティックの醸造責任者と出会い、翌年から醸造家としてのキャリアをスタートしました。当時は主に赤ワインを造っており、カルメネールやソーヴィニヨン・ブランの研修を受けながら、ロサリオ・ヴァレーの自然環境を反映したスタイルを模索しました。ここはシャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ノワールには素晴らしい場所です。マテティックの個性:冷涼地を表現するプレミアムワイン19世紀末に現在のクロアチアにあたる地域からチリに渡ってきたマテティック家は1970年代後半、元々は牧畜を目的に、この16,000haの土地を購入しました。ところが敷地の奥で、100年前のミッション種用の古いセラー「コラリージョ・セラー」を発見、色の淡いミッションワインが地元のために醸造されていたことを知りました。そこには発酵用のアンフォラや木製容器、手動ポンプなどが残されており、マテティック家はこの土地の可能性を感じたのです。新たにブドウ畑を造る企画が始まり、まずは、多種多様な品種を試験的に植えました。カリフォルニアのブドウ栽培アドバイザー、アン・クレーマーは、気候と土壌の調査を行い、冷涼気候品種を中心に栽培することを勧めました。彼女は、花崗岩質の土壌と冷涼な環境の組み合わせがエレガントなシラー、当時アメリカで流行していた過熟したオーストラリアのシラーズとは異なるスタイルのシラーを生むとも助言しました。さらに、いろいろと試した結果、この地はカベルネ・ソーヴィニヨンやカルメネールにはやや涼しすぎることも分かりました。マテティック・ヴィンヤーズ 4つの自社畑マテティックは、ロサリオ・ヴァレー一帯にワイナリーおよび4つの畑を所有。いずれも標高260m、太平洋から13-19kmの距離にあり、土壌と方角は多様。全畑が有機&バイオダイナミック栽培で、エコサートおよびデメターの認証を取得している。❶ ヴァレ・エルモソ Valle Hermoso原産地呼称:カサブランカ・ヴァレー太平洋から13km面積:27ha 植付:2007年土壌:鉄分を多く含む黒雲母と火山性凝灰岩を多く含む灰色花崗岩品種:ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ノワール❷ サント・トマス Santo Tomás原産地呼称:カサブランカ・ヴァレー太平洋から18km面積:41ha 植付:2005年土壌:石英や炭酸塩を含む赤色花崗岩と緑色凝灰岩の混合品種:ソーヴィニヨン・ブラン、シャルドネ、リースリング、シラー、カベルネ・フラン❸ ラ・カソーナ La Casona原産地呼称:サン・アントニオ・ヴァレー太平洋から13km面積:47ha 植付:2005年土壌:黒雲母と火山性凝灰岩を多く含む灰色花崗岩品種:ソーヴィニヨン・ブラン❹ エル・ロサリオ El Rosario原産地呼称:サン・アントニオ・ヴァレー太平洋から19km面積:67ha 植付:1999年土壌:風化した赤色花崗岩。石英を含む粘土層と火山灰質凝灰岩が母岩を覆う。品種:ソーヴィニヨン・ブラン、ゲヴュルツトラミネール、シャルドネ、シラー、ピノ・ノワール、マルベック、カベルネ・フラン看板ワイン「クール・クライメイト・シラー」シラーがチリに導入されたのは1990年代初頭、主にオーストラリアがアメリカ市場で成功を収めていたことが背景にあり、暖かいコルチャグア・ヴァレーでオーストラリア系クローンが植えられました。一方、マテティックではフランスのクローンを採用し、冷涼な環境ならではの全く異なるスタイルを当初から目指しました。マテティックのシラーは、花のような香り、スパイシーさ、しっかりした酸、そして密度のある味わいで、新しい「冷涼スタイル」をチリに広める存在となりました。「2004 EQ シラー(現EQクール・クライメイト・シラー)」は2006年にチリシラーで初めて"Wine Spectator"誌のトップ100ワインに選ばれ、2015年にはロンドンでのインターナショナル・ワインチャレンジで、「2012 EQシラー」がバイオダイナミックワイン部門で世界最高のトロフィーを獲得しています。2つのレンジ:コラリージョとEQマテティックでは、気候や土壌について大規模で詳細な調査を行い、土壌・クローン・台木の違いにより、ブロックごとの個性を明確に把握しています。コラリージョは品種の特徴と飲みやすさを重視したレンジ、EQは特に優れた区画を厳選した、深みと複雑さを追求するプレミアムレンジです。例えば、コラリージョのソーヴィニヨン・ブランは生き生きとした酸が魅力のフレッシュなスタイル。一方EQでは樽発酵やアンフォラ発酵、澱との長期接触などを行い、より長い熟成で奥行きと複雑味を表現しています。赤ワインでは、コラリージョで20%前後の全房発酵を行うのに対し、EQではピノ・ノワールやシラーで40-50%、年によっては70%に達することもあります。EQは、全房比率を高めることに加えて、発酵前の低温浸漬期間を長くとり、発酵後も21-30日間果皮とともにマセラシオンを続けます。その後、1-2年の樽熟成後にブレンド・瓶詰めし、さらに出荷前に1年間瓶内熟成させて落ち着かせます。持続可能性を信念とするバイオダイナミック農法と醸造アプローチマテティックは最初から家族の信念として、環境への配慮と持続可能性が根底にありました。どのように始めるか手探りの状態でしたが、カリフォルニアのバイオダイナミック・コンサルタントであるアラン・ヨーク氏の協力を得て、自分たち独自の方法を確立していきました。1999年に最初の畑を植え、2002年から有機農法を導入、2004年にオーガニック認証を取得。さらに2013年には160haすべての畑でデメター・バイオダイナミック認証を達成しました。畑づくりと並行して、水やエネルギーの使用、リサイクル、パッケージング、地域社会への貢献など、包括的なサステナビリティ活動にも取り組んでいます。2004年に完成したモダンな重力式ワイナリーでは、ブドウをできるだけ丁寧に扱えるよう設計されています。設備は最新ですが、醸造の考え方は伝統的です。天然酵母による自然発酵や低介入を重視し、フレンチオーク樽で静かに熟成させます。今後の展望所有地は広大で、もっとブドウ畑を増やせるように見えますが、水資源に限りがあります。ブルーベリー畑40haと牧畜にも水を使います。水は常に貴重な資源で、賢く使う必要があります。そのため、ワインの生産量は年間4-5万ダースを維持する予定です。現在、私たちはブドウ樹の品質と収量に改めて焦点を当てています。最新の苗木技術やクローン選抜により、より適した台木と遺伝的品質を得られるようになりました。5-7haを2年ごとに植え替え、10年で50-60haを更新する計画です。古いピノ・ノワールの遺伝子はあまり良くなかったため、5年前と2年前に植え替えを実施し、収量も果実の表現も格段に向上しています。特に110Rやポールセンなどの台木は根の張りが早く、根の弱いピノ・ノワールには理想的です。ウイルス対応の苗の導入も大きな進歩です。ソーヴィニヨン・ブランとピノ・ノワールでは新しいクローンを試し、多様な表現を追求しています。また、有機農法で培った知識を活かし、植樹前の土地づくりにも注力。カバークロップの利用、堆肥の投入、土壌の健全化などにより、樹勢はかつてないほど健やかで力強くなっています。ここには高評価のレストランやブティックホテルもあります。ロサリオ・ヴァレーを訪れて、美しい風景とマテティックのワインを楽しんでください。<<掲載ワイン>>マテティック コラリージョ ソーヴィニヨン・ブラン 2022(スクリューキャップ)チリ、サン・アントニオ・ヴァレーソーヴィニヨン・ブラン100% Alc.13.7%定価¥2,200グレープフルーツやライムのアロマにハーブやミネラル。果実と酸がバランスよく爽快で、かすかな塩味が伴う。手摘みブドウを30日間低温発酵、澱とともに3ヶ月間熟成。冷涼なために果粒が小さかった年で、近年で最も凝縮感がある。マテティック コラリージョ ピノ・ノワール 2022(スクリューキャップ)チリ、カサブランカ・ヴァレーピノ・ノワール Alc.13.5%定価税込 ¥4,125イチゴ、ラズベリー、ブルーベリーにスパイスが心地よい。ジューシーな果実に溌剌とした酸と柔らかいタンニンが伴う。手摘みブドウをフレンチオーク樽で11ヶ月間熟成。2022年は全般に冷涼で、ブドウはゆっくり成熟。マテティック コラリージョ シラー 2021チリ、サン・アントニオ・ヴァレーシラー Alc.14.0%定価税込 ¥4,125スミレと赤い果実のアロマに胡椒やチョコレート、オーク由来のスパイス。口当たりは柔らかく、豊潤な果実を緻密なタンニンがバランスよく支え、複雑な余韻に導く。手摘みブドウを自然発酵、フレンチオーク樽で16ヶ月間熟成。マテティック EQ コースタル・ソーヴィニヨン・ブラン 2022(スクリューキャップ)チリ、カサブランカ・ヴァレーソーヴィニヨン・ブラン Alc.13.6%定価税込 ¥3,300柑橘や白い果実、イチジクの葉やハーブの複雑なアロマ。凝縮した果実味を塩味を帯びた酸が引き締め、繊細で活力ある余韻が続く。ブドウはアロマを保つため不活性ガスを使って無酸素状態で圧搾。澱とともに4ヶ月間熟成。マテティック EQ グラナイト・ピノ・ノワール 2019チリ、カサブランカ・ヴァレーピノ・ノワール Alc.14.0%定価税込 ¥7,040冷涼地らしい高い酸と引き締まったミネラル感。アタックは力強く、純粋な果実とともに鉄やヨードなどミネラリーな風味がまろやかに舌を覆う。手摘みブドウを自然発酵(35%全房)、フレンチオーク樽で12ヶ月間熟成。マテティック EQ クール・クライメイト・シラー 2018チリ、サン・アントニオ・ヴァレーシラー Alc.14.3%定価税込 ¥7,040黒い果実、スミレの繊細な花の香に胡椒や土っぽさが複雑に混じる。凝縮感ある果実に明るい酸が伴い、洗練された味わい。手摘みブドウは区画・クローンごとに仕込み。自然発酵、フレンチオーク樽で18-20ヶ月間熟成。