醸造家としてのキャリアとマーティンボローとの出合いワイン業界に入ったのは、比較的遅い方です。大学では農業商学を専攻し、80年代初頭にリンカーン大学を卒業しました。最初は不動産鑑定士として働いていましたが、その中でマールボロのモンタナ・ワインズの案件を担当、それがきっかけでワインに興味を持つようになりました。38歳の時、リンカーン大学に戻り、ブドウ栽培と醸造学の大学院課程を修了しました。すでに家族もいましたし、リスクもありましたが、自らが歩むべき道はこれと確信したのです。2000年代初頭、ラリー・マッケナ(マーティンボローで初めての専門的知識のある醸造家で、1989年パリサーの最初のワインを造る)と一緒にマーティンボローのエスカープメント・ヴィンヤードで7年間、その後、グラッドストーン地域で有機バイオダイナミック栽培を手がけるアーラーで栽培醸造家として働きました。2015年、パリサーのCEOピップ・グッドウィンから、畑のオーガニック転換を進めるため、力を貸してほしいと声をかけられました。テラス一帯に広がるパリサーの6つの素晴らしい畑に惹かれたのも決め手でした。気候が育てるマーティンボローのピノ・ノワールピノ・ノワールの産地として有名なマーティンボローですが、実はニュージーランドでピノ・ノワールを栽培するにはかなりの北限にあたります。ここの地形は南側が開いた谷間なので、南島から吹き上げてくる冷たい風“サウザリー”の影響を強く受け、開花が阻害され、房は小さく緩くなり、収量は自然と抑えられます。ピノ・ノワールは4t/ha、ソーヴィニヨン・ブラン10t/haと、南島マールボロの約半分です。南風が去った後は、強い時には時速100kmほどの非常に強い風が、タラルア山脈を越えて北西から吹きつけます。若いうちに強い風を受けた果実は果皮が分厚くなるので、タンニンが豊富です。ニュージーランドの中でもマーティンボローのピノ・ノワールは、タンニン構造を軸にしているのが特徴で、酸構造で成り立ち、果実味がふくよかで華やかなセントラル・オタゴのピノ・ノワールとは対照的です。土っぽさを持ち、骨格のしっかりした豊富なタンニンがマーティンボローの個性だと考えています。マーティンボローと、均一ではないテラス(段丘)の土壌マーティンボローの町があるこのテラスは、ごく短い距離の中で土壌構成が大きく変わる興味深い段丘です。高台になっていて、テラスの縁に沿っては水捌けのよい河川礫土壌が広がり、町の中心部に向かうにつれ粘土質土壌が現れます。テラス前縁の礫層は深さ約11m、中央部で深さ25m、テラス最上部では礫層は40mにもなります。段丘が形成された際、川が丘から平地へと流れ出る中で大きな石は自然と手前に残され、小さな石はより遠くまで流されていきました。テラスの縁から離れると、粘土がより多く見られるようになります。私たちの6haのフア・ヌイ・ヴィンヤード(map❹)はテラスの中ほど、深さ約25mの水はけのよい礫層の上にありますが、テラスの縁から畑の半ばまでくると地面が1mほど高くなり、小さな粘土層が混ざり始めます。微細な差を活かして区画ごとに収穫・仕込みを分けると、礫の部分のブドウは果実の表現が強く、粘土質からのブドウはワインに厚みとテクスチャーを加えます。テラス全体にこうした粘土の筋が通っていて、1ha程度の小さな畑にも多様性があるので、そこがこの土地でのワイン造りをより面白く、やりがいのあるものにしてくれるのです。進化の第一歩は、オーガニック栽培から私たちがもっとも重要視しているのは、畑の可能性を最大限に引き出すことです。そのために、オーガニック栽培は非常に重要です。オーガニックならではの樹全体の自然なバランスが、「その土地の表現」をより可能にしますが、それは慣行農法では得られないものです。現在、全畑の60%がニュージーランドのオーガニック認証機関バイオグロ(BioGro)の認証済みで、2026年中の100%認証取得を目指しています。パリサーは、ワイララパで最大のオーガニック生産者です。オーガニックへの移行には、畑全体の管理を根本的に変えることが必要です。殺虫剤、浸透性の防除剤、除草剤は使えません。害虫対策ではファセリア(※ 本カタログ表紙の花)やソバを植えて花を咲かせ、集まった地蜂に毛虫を退治させたりしています。カビ対策には硫黄を散布しますが、こまめな、特に雨上がりの散布は必要です。除草の代わりには、自分はあまり好きではないですがアンダーヴァイン耕うん機(under-vine cultivator)を使って根元の土を掘り起こします。かつてニュージーランドでは台木101-14が広く使われてきました。キャノピーが開いて除草剤が浸透しやすく、しかも樹勢を抑え果実の質を高めることができたからです。除草剤を使えば樹の根元は常にきれいなので、台木の細根(吸収根)は表層で栄養や水分を効率よく吸収できます。しかし有機栽培では表層近くの細根は他の草と競争しなければならないので、アンダーヴァイン耕うんで根元の土を掘り起こして細根を切断し、根がより深く下に向かって伸びるよう促します。3年ほどかかりますが、ぶどう樹は根を深く伸ばし、自らバランスを取るようになります。最初からオーガニックで栽培するなら、適した別の台木を選ぶべきでしょう。オーガニックで育てたピノ・ノワールには明らかな土っぽさと旨みがありますが、従来の栽培方法ではフルーツの明るさが際立ちます。どちらにもそれぞれのよさがありますが、オーガニックには特有の調和があると感じています。ワイナリーでの取り組み私の醸造哲学は、可能な限り手をかけないことです。よい果実があれば、余計な介入は必要ないです。シャルドネの場合、収穫はすべて手摘みで、亜硫酸は添加せず、房ごと直接プレスして樽に送ります。酵母は畑で採取したものを培養した自社培養酵母を用い、自然発酵させます。バトナージュも基本的には行いません。2000年代初め頃までは2週間ごとに行っていましたが、今は必要と感じた時に、せいぜい1樽行う程度です。樽使いも大きく見直しました。オークの香りはできるだけ抑え、構造と余韻のために使っています。やや古く使い込んだ樽を選び、焦がし加減もエレガントなメーカーを採用しています。熟成中の各樽を年3回テイスティングしてスコアを付け、オム・サンティ(シングル・ヴィンヤード)、エステート(マーティンボロー・ピノ・ノワール)、ペンカロウにどのように割り当てるか決めます。ピノ・ノワールについても基本的には同様で、6haあるフア・ヌイ・ヴィンヤードのうち、最も優れた2ha分が単一畑ラベルになります。こちらも全量手摘みで、発酵槽に直接入れていきます。抽出については、以前よりかなり抑えるようになりました。これは現在のニュージーランド全体の流れでもあると思います。マーティンボローの果皮にはもともと非常に多くのタンニンが含まれています。以前はそれをさらに引き出そうとし過ぎて、タンニンを強く感じるワインになりがちでした。パリサーでの10年間で印象的なこと私がパリサー・エステートの一員となってからちょうど10年が経ちました。この10年で特に印象的なことの一つは、2023年のデキャンター・ワールド・ワイン・アワード(Decanter World Wine Awards)で、「2021 フア・ヌイ・ピノ・ノワール」が“ベスト・イン・ショー”となり、「2021 オム・サンティ・シャルドネ」とともにプラチナメダル&97ポイントを獲得したことです。このとき初めて、「私たちは正しい道を歩んでいる」と確信できました。どちらもオーガニック区画からのワインで、経営陣も他の畑のオーガニック転換に自信を持つようになったのです。パリサー・エステート 6つの自社畑❶ ワイナリー・ヴィンヤード(Winery)2ha/ピノ・ノワール(クローン:MV6&Abel)主体、シャルドネ4列2段に分かれ、上段のほうが2週間早く成熟する。下段の土壌はやや重め。有機認証有❷ オム・サンティ・ヴィンヤード(Om Santi)8ha/ピノ・グリ、リースリング、シャルドネ礫質で最も排水性が高い。ミネラル感豊富、繊細でエレガントなスタイル。有機認証有❸ ピナクルズ・ヴィンヤード(Pinnacles)4ha/ピノ・ノワール、シャルドネ、リースリング、シラー傾斜地で最も温暖。礫質で純度の高い果実が得られ、主にスパークリング向け。❹ フア・ヌイ・ヴィンヤード(Hua Nui)6ha/ピノ・ノワール(クローン:Dijon&Abel)テラスの縁に位置し、水はけのよい深さ25mの礫層。縁から離れるに従い粘土が見られる。有機認証有❺ ペンカロウ・ヴィンヤード(Pencarrow)25.7ha/ピノ・ノワール(19.5ha)、ソーヴィニヨン・ブラン(4.5ha)、ピノ・グリ(1.7ha)重粘土にソーヴィニヨン・ブランとピノ・グリ、礫と粘土の混合土壌にピノ・ノワール(クローン:Dijon)。エステート(マーティンボロー)シリーズの主要供給畑。有機認証有❻ ウールシェッド(旧パリサー)・ヴィンヤード(Woolshed)25ha/ソーヴィニヨン・ブラン(12ha)、シャルドネ(7ha)、ピノ・ノワール(6ha)テラスに沿っては礫質土壌、町の近くは重粘土。ソーヴィニヨン・ブランは粘土、シャルドネは礫と粘土が混在する区画に植え付け。<<掲載ワイン>>パリサー・エステート ペンカロウ ピノ・ノワール 2023(スクリューキャップ)品種:ピノ・ノワールAlc.13.5%定価税込¥4,895CODE:13244快活な酸と果実が親しみやすいが、しっかりした構成のミディアムボディ。「初心者に飲みやすく、通も満足」と生産者。自社畑(ペンカロウ56%、ウールシェッド38%、ピナクルズ6%)ブドウを主に自然発酵、10ヶ月間樽熟成。パリサー・エステート マーティンボロー ピノ・ノワール 2022(スクリューキャップ)品種:ピノ・ノワールAlc.13.6%定価税込¥6,600CODE:12682チェリーやスパイスの風味に滑らかなタンニン。清涼な酸が全体を優雅にまとめる。3つの有機栽培自社畑(フア・ヌイ、ワイナリー、ペンカロウ)のブドウを手摘みして自然発酵(10%全房)、フレンチオーク樽で10ヶ月間熟成。パリサー・エステート フア・ヌイ・ヴィンヤード ピノ・ノワール 2021(スクリューキャップ)品種:ピノ・ノワールAlc.13.5%定価税込¥11,000CODE:12412フア・ヌイ(Hua Nui)は、マオリ語で「豊穣の果実」。色濃い果実のアロマに滑らかな口当たり、重層的な味わいと軽快な明るさ。単一畑の手摘みブドウを自然発酵(49%全房)、フレンチオーク樽で10ヶ月間熟成。軽く清澄し、無濾過。パリサー・エステート ペンカロウ シャルドネ 2023(スクリューキャップ)品種:シャルドネAlc.12.6%定価税込¥4,015CODE:12988明るく弾ける果実味とクリーミーな口当たり、スパイシーなニュアンスはまさに夏にぴったり。自社畑(ウールシェッド97%、ピナクルズ3%)ブドウをフレンチオーク樽発酵、10ヶ月間熟成。澱を攪拌し、複雑さを加味。パリサー・エステート マーティンボロー シャルドネ 2023(スクリューキャップ)品種:シャルドネAlc.12.9%定価税込¥4,950CODE:12987凝縮したストーンフルーツとオークの風味、ミネラリーなニュアンスと力強い酸。自社畑(ウールシェッド60%、オム・サンティ40%)の手摘みブドウを全房圧搾、フレンチオーク樽で自然発酵、澱とともに10ヶ月間熟成。パリサー・エステート オム・サンティ・ヴィンヤード シャルドネ 2021(スクリューキャップ)品種:シャルドネAlc.13.7%定価税込¥8,250CODE:12413白桃、ネクタリンの芳醇な果実味に微かなバニラのニュアンス。牡蠣殻のようなミネラル感がエレガント。水捌けがよく冷涼な単一畑の有機栽培ブドウを手摘み。全房圧搾後、フレンチオーク樽で自然発酵、熟成。