醸造家になったきっかけとタービルクとの出合い大学では経営学を専攻しましたが、卒業後進路が定まらず、典型的なオーストラリア人の若者の例にもれず、ヨーロッパを半年間バックパックで旅して回りました。ワインは大学の学費や旅費の捻出のためにアルバイトをしたホスピタリティ業界でトレーニングを受け、興味を持っていました。最終的にロンドンで3年過ごした後、2000年代初頭にオーストラリアへ戻り、好奇心からワガ・ワガ(ニュー・サウス・ウェールズ州)のチャールズ・スタート大学で醸造を学びました。物事の「なぜ」を知りたい性格で、例えば、どうしてシラーズが産地によってこれほど味わいが異なるのかなど、その理由を突き詰めたかったのです。このコースでは学科と並行して実地研修があり、私はタービルク・グループで実習をしました。グループには年間12,000tの生産能力をもつ大規模な醸造所もあります。私は卒業後、2005年からグループのマクファーソン・ワインズに入り、醸造を担当しましたが、同時にグループの醸造家たちと一緒にタービルク・ワインのブレンドやテイスティングにも携わり、頻繁にタービルクに通いました。そして4年前に、タービルクに正式に移りました。ナガンビー・レイクスとオールド・タービルク、ニュー・タービルクナガンビー・レイクスはそれほど大きな産地ではありません。タービルクの片側にはゴルバーン川が流れています。これは灌漑用の川で、山岳地帯の雪解け水や支流を集めながら、最終的にマレー川へと注ぎますが、この川がいくつもの「ビラボン(billabong=水たまり、池)」をつくっています。タービルクという名前は、この地域の先住民であるトゥンガルング(Taungurung)族の言葉で「水たまりの多い場所」を意味する“tabilk-tabilk”に由来します。ゴルバーン川は、タービルクの裏手を巡るビラボンを潤し、タービルクはまさに水に囲まれた、オーストラリアでも類を見ない、独特の素晴らしい微気候の恩恵を受けています。かなり以前に川をせき止める堰(weir ウィア)が築かれ、ビラボンには常に水が保たれています。タービルクは、「オールド・タービルク」と「ニュー・タービルク」に分かれています。直線距離でわずか2kmしか離れていませんが、この2つは全く異なる土地です。オールド・タービルクは川沿いの平坦で肥沃な砂質土壌。1860年のシラーズがフィロキセラから生き延びたのもこの砂質土壌のおかげです。一方、ニュー・タービルクは硬い粘土質土壌に新たに植えた区画で、土壌の健康維持や生育管理には常に耕す必要があるなど、より手間がかかります。北部には酸化鉄を多く含む地質帯もあります。タービルクの遺産と歴史:シラーズとマルサンヌタービルクでは、1860年に初めてローヌから持ち込まれたシラーズとマルサンヌの挿し木が植えられました。シラーズは定着しましたが、マルサンヌは根付きませんでした。その後、1927年に再びマルサンヌが植えられ、今度は見事に根付きました。その後も1930年代、50年代、60年代と植え付けが続き、昨年もマルサンヌの苗木を植えました。タービルクでは新しい区画で収量を確保しつつ、同時に古木にも丁寧に向き合う姿勢が、車の両輪のように保たれています。1860年のシラーズは栽培面積わずか0.5haほどで、収穫は良い年でもせいぜい300ケース程度です。年月を経た樹はねじれ、その姿には風格があります。樹が枯れても新しく植樹していないので、畑には空いているところもありますが、健康状態は良好です。古い畑の管理は、商業的な新しい畑とは異なり、剪定も収穫もすべて手作業、根元はマルチングで保護し、水やりも特別な方法をとり、収量は少ないですが、その分、果実や風味の凝縮感は高くなります。現存するタービルク最古のマルサンヌは1927年植樹で、今も元気に実をつけています。かなり広い区画で、収量も安定しています。エステート全体で6つのマルサンヌの区画がオールド・タービルクとニュー・タービルクの両方にあり、それぞれの区画の特徴に合わせて、それぞれ個別のアプローチがとられています。タービルクのマルサンヌ栽培面積は、オーストラリアだけでなく世界でも最大です。樽を全く使わず、すぐに美味しく飲めますが、長期熟成にも耐える造りで、個人的には、年月とともに変わる味わいが好きです。タンクで発酵して6ヶ月で瓶詰めされる若々しいマルサンヌを好む人も多いです。酸が最も重要で、まだ多少グリーンっぽさが残る状態で早摘みすることが大切です。修復を重ねて長年使い続ける設備1860年代から1900年代初頭にワインが造られていた時代には、電気もポンプもありませんでした。今のようにポンプを使ってワインをあちこち移動するわけにはいかず、全て重力です。今も残っている塔(写真①)は、以前は、2階の扉までブドウを吊り上げ、さらにそこから3-5tの古い木製発酵槽に投入していました。これらの発酵槽は現在も「オールド・レッド・セラー」の一部として使われています。そこで破砕・発酵後、ワインは地下セラーに流し込まれ、1,000-3,000ℓの大型木樽で熟成させます。この木樽も今もなお地下セラーにずらりと並んでいます。全ての樽が創業当時のものというわけではありませんが、修復を重ね、使えるものは今でも使用しています。すべてが手作業なので量は多くはありませんが。発酵後の果皮は今でもシャベルでかき出しています。タービルクのワインスタイルタービルクのスタイルはミディアムボディで、ワインの中にエレガンスを表現することを目指しています。赤ワインでは、シラーズならアルコール度13.5-14%、カベルネなら14%を少し超える程度が最もよい仕上がりになります。それを外れると、ワインの構造が崩れてしまい、バランスも失われます。その均衡をしっかり保つのに必要なのが、収穫のタイミング、テロワール、そしてタービルクというエステートが本来得意とすることを見極める力です。赤ワインはすべての区画を別々に収穫・発酵し、それぞれのワインに最適なオークの扱いを施し、その後ブレンドします。私はカベルネがとても好きです。カベルネは熟成してより魅力を増します。ブルーベリーのニュアンスに、ほんのわずかにピーマンのような青さが加わることで、味わいに奥行きが生まれます。ユーカリの香りがわずかに感じられることもありますね。タンニンはなめらかでバランスがよく、口当たりはリッチでビロードのよう。熟成ポテンシャルも高いワインです。私のチームには、私より長くタービルクで働いている醸造家たちもいて、どの区画がどのような特徴を持っているか、いつ収穫すべきか、熟知しています。それでも、収穫期に実際に畑へ出て、自分の舌でブドウの味を確かめて、「よし、いまが収穫のタイミングだ」と判断する、その感覚に勝るものはありません。100年の家族の伝統とはタービルクに来た当初、私は「すべてを変えて、自分らしいスタイルにするぞ!」と意気込んでいました。でも実際に関わるうちに考えが変わりました。むしろ「変えないこと」が重要だったのです。既存のスタイルを守りながら、もっと美しく、より完成度の高いワインを目指す。それがタービルクで働くということなのだと気づきました。エステート自体もそうです。1860年代に遡る歴史的な建物やセラーを維持するには莫大な費用がかかりますが、それもタービルクの価値の一部。受け継いで守ることが、私たちの使命だと感じています。タービルクについてエステートの総面積は1,214ha。ゴルバーン川に11km、後背地の水路とは8kmに亘って接し、敷地内には肥沃な沖積地が広がっている。そのうち約250haがブドウ畑、3分の1がその他作物、それ以外は自然の湿地。通常ヴィンテージの年間生産量は約10万ダース。サステイナビリティと気候変動への対応タービルクとパーブリック家は、持続可能なブドウ栽培と醸造の取り組みに注力している。ヘイリー・パーブリックの主導で2013年には、ニュージーランドの環境認証トイトゥ・エンバイロケア(Toitū Envirocare)のカーボンゼロ認定を取得。「実質排出ゼロ」の認証を得た世界でも数少ないワイナリーのうちの一つとなった。天候は年々極端になり、2022年10月の大雨では上流の堰が決壊しそうになり一気に放水、結果、大洪水が起きてオールド・タービルク一帯は一時完全に水没した。有機転換を進めていたいくつかの畑にも、やむを得ず農薬を散布という決断をするしかなかった。今後、温暖化や乾燥・洪水といった「水」に関する問題に直面せざる得ない状況で、タービルクでは、新たな品種だけではなく、水をあまり必要としない台木や極端な気温(高温・低温)に耐えられるクローンの選定など、自分たちのスタイルを表現する品種構成を守る選択をしているとのこと。①タワー(1882年建設)② 1860-70年代に掘削、現在も使われる地下セラー③ パーブリック・ファミリー、左から5代目のヘイリー、3代目ジョン、4代目アリスター④ マルサンヌの古木畑<<掲載ワイン>>タービルク マルサンヌ 2024(スクリューキャップ)品種:マルサンヌAlc.12.8%定価税込¥2,530CODE:13158白桃やレモン、控えめなフローラル香が特徴。バトナージュやマロラクティック発酵、樽といった醸造テクニックは使わず、果実の個性と酸をそのまま瓶に閉じ込める非常にシンプルな造り。収量は平年よりやや少ないが良質。タービルク シラーズ 2021(スクリューキャップ)品種:シラーズAlc.14.6%定価税込¥3,520CODE:13209果実味主体でエレガント、やや軽やかなスタイル。ブドウはペッパーやスパイスのニュアンスが重要で、完熟させすぎずに収穫。開放式オーク槽で発酵後、大型の古樽と小型の新樽を組み合わせ熟成。長期瓶熟を楽しめる。タービルク カベルネ・ソーヴィニヨン 2020(スクリューキャップ)品種:カベルネ・ソーヴィニヨンAlc.14.0%定価¥3,520CODE:13019カシス、ミント、ブラックオリーブやハーブのアロマとしっかりしたタンニン。155年以上使用する木製の開放式大桶で7日間発酵、フレンチオークとアメリカンオークのホグスヘッドや大樽で18ヶ月間熟成。畑の平均樹齢は35年。タービルク オールド・ヴァインズ・カベルネ・シラーズ 2019(スクリューキャップ)品種:カベルネ・ソーヴィニヨン60% / シラーズ40%Alc.14.7%定価税込¥5,720CODE:13021高樹齢の区画(最も古いカベルネは1949年、シラーズは1860年と1933年に植樹)からのオーストラリアンブレンド。他の赤同様、伝統的なオークの開放式発酵槽で発酵、フレンチおよびアメリカンオーク樽で18ヶ月間熟成。凝縮したダークベリー、プラム、オークのスパイス香が深みと香ばしさに。タービルク 1860 ヴァインズ・シラーズ 2014(スクリューキャップ)品種:シラーズAlc.13.1%定価税込¥33,000CODE:12452フィロキセラ以前の1860年に植えられた自根の古木から少量生産。ブドウは155年以上使い続ける木製大桶で発酵し、フレンチオーク樽(新樽50%)で18ヶ月間熟成。ブラックベリー、レッドベリーにトリュフチョコ、微かなスパイス。深みのある味わいと長い余韻に力強い複雑さとフィネスが備わる。