◆ ワインラベルにあるアルコール度数ワインに関して「アルコール」と言う時は「エタノール」、別名エチルアルコールを指します。ブドウ酵母が果汁の中の糖分(主にブドウ糖と果糖)を発酵させて生成したエタノールです。そして、エタノールを容積比率で1%以上含む飲料は、「酒類」として酒税法に基づく課税の対象になります。日本では、ワインはリンゴを材料としたシードル、フルーツワインなど果実を原料とした醸造酒とともに「果実酒」として酒税がかかります。ちなみに欧米で「ワイン」というと、ブドウを原料とした醸造酒のことです。 さて、殆どの国でアルコール飲料の摂取には年齢制限があり、アルコールがどれくらい入っているかは、通常容器のどこかに表示されています。ワインの場合、ラベルの表か裏かどちらかにアルコール度数が記載されていることが多いですし、日本の輸入ワインの場合、輸入販売業者を明示する輸入者ラベルへのアルコール度表示は必須項目です。 このアルコール度数表示、消費者にはアルコールの強さが分かり、アルコール摂取の注意を喚起する一助と捉えられがちですが、本来は酒税としての税金徴収が目的と考えたほうが理屈に合います。その証拠に、酒税法は酒の製造に使う素材、製造方法、その結果としてのアルコール度数、さらにはその時々の社会の情勢やニーズに対応して変更されます。 実際、人間の歴史とともに存在してきたアルコールは、文化が発展していく中で税金、いわゆる「酒税」などに制度化され、国の大切な財源になりました。日本では中世より酒類に対する課税があり、江戸時代になっても明治維新以降も引き続き施政者にとって大切な財源で、19世紀末には地租を抜いて国税収入のトップだったこともあるようです。しかし1950年以降、他産業の興隆や酒離れもあり、税収に占める酒税の地位は低下してきました。 近年、健康志向の高まりから、アルコール度数が注目され、ついついボトルに記載されたアルコール度数を気にして確認することがあります。しかし、酒税で決まっているアルコールの度数表記は、必ずしも国民の健康のためのガイドラインではなく、あくまでも徴税の手段と考えれば、ラベル記載のアルコール度数の見方も変わります。◆ 国により異なるアルコール表示方法とラベル・アルコール・トレランス 酒税はそれぞれの国が持つ独自の法律に基づき決められています。つまり世界共通のルールではなく、アルコール度数のラベルへの表記の仕方は国によって異なります。そのため自国で流通している自国のルールに則った酒を国外に輸出しようとすると、輸出先の酒税法に対応してアルコール表示などを変更しなければならない場合があります。EUやUKの場合、少なくともアルコール度数の表示の仕方がオーストラリア、ニュージーランド、米国などと異なりますので、オーストラリアなどは自国のワインをEUなどに輸出するときには、国内用とは別のラベルを作成する必要があります。実際、ワインは農作物ですので、同じように造っていても年により微妙にアルコール度数も変わります。毎回正確な数字をラベルに印刷することになるとかなり煩雑になりますので、どこの国でも、実際のアルコール度数とラベルに表記するアルコール度数との違いがどこまで許されるか、というある程度の許容度「ラベル・アルコール・トレランス」を設けています。 例えばオーストラリアやニュージーランドの場合、スパークリングを含む通常のワインであれば、ラベル・アルコール・トレランスはプラス・マイナス(±)1.5%、つまりラベルにアルコール度13.0%と書いてあるワインであれば、実際のアルコール度は11.5%から14.5%の可能性があるということです。米国のラベル・アルコール・トレランスは、14%未満であれば±1.5%、14%以上であれば±1.0%となっています。言い換えれば、日本に輸入されるオーストラリア、ニュージーランド、USのワインは、アルコール度数が実際の測定で12.3%あるワインでも、そのラベルに表記されているアルコール度は、11.0%かもしれませんし13.5%かもしれません。 一方、UKとEUはアルコール度数に関係なく、ラベル・アルコール・トレランスは一律±0.8%でラベルへの記載が必要です。そのためそのような市場にオーストラリアなどが自国のワインを輸出する場合は、国内市場向けとは異なるUKやEU向けのラベルが必要ということになります。◆日本でのアルコール度数表示:生産者ラベル、輸入者ラベル、実測 日本の場合は、輸入販売元がアルコール度数を明示することが義務付けられていますので、特別に日本向けのラベルを必要としていません。ワインを日本に輸入する場合、原産国で作成された「成分分析表」が必要ですが、そこには実際に測定されたアルコール度数が表示されています。日本のラベル・アルコール・トレランスでは、果実酒であれば室温(15℃)でのアルコール度数を1%刻みでも0.5%刻みでも、どちらか近い数値をボトルに表示することができます。例えば、輸入ワインの実際のアルコール度が12.3%であれば、輸入者ラベルの表示方法としては、(1)12%以上13%未満( 2)11.5%( 3)12.0%( 4)12.5% または(5)13.0%など5通りの中から選択して表示することが可能です。 ヴィレッジ・セラーズがワインの輸入を始めた30年以上前、ワインの輸入者ラベルにあるアルコール度はすべて「15%未満」で済んでいました。2011年より「ラベルに記載」と税関へ届け出ています。最近はより詳細に、生産者のラベルのどこに記載されているのか、文字のサイズは適切か、など写真添付での申請が必要になってきました。 そこで今後の弊社の対応として、できるだけ実際に近いアルコール度数を表示するため弊社カタログには、実測のアルコール度を表記、ボトルの裏に貼る「輸入者ラベル」には小数第一位を0.5%単位(切り捨て)としたアルコール度数を表示することにしました。つまり、実際は12.3%のアルコール度数であれば、カタログ等はそのまま表示し、輸入者ラベルの表示は12.0%になります。生産者のボトル・ラベルは、先に記した通りです。◆ワイン愛好家にとってのアルコール度このような酒税とアルコール度数の話とは別に、実際に飲んだ時の経験では、アルコール度数が高くともアルコールをそれほど感じない場合がある一方、低アルコールワインでも、アルコールを強く感じるワインもあります。ワインはすべて、そのバランスによって美味しさを感じると言われます。 また最近の気候変動により、従来、いわゆる「新世界」のワインに比べてアルコール度が低めと言われてきたヨーロッパワインのアルコール度が高くなる傾向にある一方、最近の低アルコール志向に合わせて、従来はアルコール度が高いと言われてきた「新世界」では、生産者は栽培・醸造面においてアルコールを抑える試みをしています。 ワインの飲み手にとっては、ラベルに表示されたアルコール度数は、美味しさを保証するものでも健康志向をサポートするものでもない、ということを意識しても損はないでしょう。ワインのアルコール度については、今後も視点を変えて考えていきたいと思っています。参考資料:清水健一著『ワインの科学』講談社ブルーバックスB-1240酒税 :フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』What’s your tolerance? Label alcohol tolerance by market :ワイン・オーストラリア 酒税率一覧表 :国税庁