2018年8⽉2⽇付け時事通信は、他の元素と反応しにくい希ガスの元素「ア ルゴン」について、厚⽣労働省の薬事・⾷品衛⽣審議会添加物部会は⾷品衛⽣法 に基づく⾷品添加物への指定を認める報告書をまとめた、と報じました。アルゴンとは アルゴンは、空気中に窒素、酸素に次いで多い物質で、約1%弱存在し、私た ちは呼吸とともに毎⽇平均約160L前後のアルゴンを吸い込んでいると⾔われ ています。⽇本では⾦属の溶接や医療現場で使われている希ガスですが、安全 性は国際的に認められており、海外では⾷品の包装や飲みかけワインの酸化防 ⽌⽤充填剤としても使われています。 ⽇本ではアルゴンを⾷品に使⽤することが認められていないため、ワインの 酸化防⽌剤として主に窒素が使われていますが、諸外国ではアルゴンは窒素と 同様に化学的に安定した元素であるとして、国際⾷品規格に包装⽤ガスとして も収載されています。また⽶国では⼀般に安全と⾒なされる(GRAS)物質で、 果実、野菜ジュース、ワインへの使⽤が認められており、欧州連合(EU)では、原 則として全ての⾷品への使⽤が認められています。ワインへのアルゴン使⽤を可能にするために ⽇刊醸造産業速報第16676号に「・・・厚労省はEPA交渉の始まる以前から、⽇ 本の⺠間業者からの要望を受けて検討を重ねていた」(2018年8⽉9⽇)とある ように、アルゴンは、ヴィレッジ・セラーズの要請に基づき厚⽣労働省が検討を 重ねたものです。ヴィレッジ・セラーズの新規⾷品添加物指定要請を経て、弊社 が作成した「アルゴン概要書」を添えて、厚⽣労働⼤⾂が内閣府の⾷品安全委員 会に⾷品安全基本法の規定に基づく健康影響評価を求めました。その結果、ア ルゴンは⾷品安全委員会から、⼈の健康を損なう恐れのない添加物として厚⽣ 労働省に通知されました(6⽉12⽇)。これを受けて、アルゴンの⾷品添加物新 規指定の是⾮および規格基準等を厚⽣労働省において検討するため、8⽉2⽇、 厚⽣労働省の薬事・⾷品衛⽣審議会添加物部会で審議され、前に進めることに なったのです。 弊社がアルゴンの指定要請に関わるようになったのは、ワインの品質保持を⽬ 的としたアルゴンの⼩型ボンベ「ワインセーブ winesave」を開発したオースト ラリアのヴィノテック社との関係からです。⾼額なワインをより多くのワイン愛 好家に気軽に楽しんでいただくためには不可⽋なアイテムとして、⽇本でもアル ゴンを使えるよう、⾷品添加物への指定を実現させたいと思ったからです。 2011年1⽉、厚⽣労働省を訪問し、アルゴンの⾷品添加物指定要請には、⾷ 品安全委員会による「⾷品添加物の評価指針」及び厚⽣労働省担当部による要 請資料作成に関する指針に基づいて要請書を作成する必要があるとの説明を 受けました。 アルゴンは、EUでは⾷品科学委員会(SCF)が1990年から⼀⽇摂取許容量 (ADI)の設定が不要とされる包装⽤及び噴霧ガスとして使⽤を認め、 FAO/WHO合同⾷品添加物専⾨家会議(JECFA)では1999年に⾷品添加物規格 が設定され、⽶国では⾷品医薬品庁(FDA)が2000年に⼀般に安全とみなされ る物質(GRAS)と認定しています。ワインセーブは、仏E.Guigalのワインメー カー、フィリップ・ギガルや英国のワイン評論家ジャンシス・ロビンソンの推薦 を受け、また英国の有名ワイン誌『Decanter』もワインセーブのアルゴンの効 果を⼤きく取り上げていました。 このような背景があるアルゴンを添加物として新規認定してほしいという 申請は、状況を充分に説明できれば可能なはずと安易に考え、この時点では新 規認定要請がどれほど⼤変なことか、全く理解していませんでした。新しい⾷品添加物を申請すること 新規の認定であるからには、アルゴンがどのような物質で、どのように製造 され、どのように確認されるべきか、その成分規格案および試験の⽅法の原案 を要請者が提案する必要があります。またその⽤途はどのようなもので、使⽤ 基準をどう設定するかも要請者が原案を提案しなければなりません。要請⾃体 は⼀個⼈、⼀企業にも資格があるものの、専⾨知識のないヴィレッジ・セラーズ が独⼒で出来ることではありません。要請書がまとまるまでには、多くの専⾨ 家のご協⼒とアドバイスをいただきました。2011年から開始された申請のた めの要請書づくりは、当初はヴィレッジ・セラーズ単独で⾏っていましたが、何 とか要請書案を⽤意して厚労省に持ち込んだものの、専⾨的な内容が必要とい うことで受理してもらえませんでした。転機となったのは、私たちの誠意を理 解する⼀⼈の友⼈が興味を持ち、さらに化学分野に詳しく熱い思いを共有する 彼の親友を引き込み、2013年の年末からボランティア・アドバイザーとしてサ ポートしてくれてからです。彼らの⼈脈で新規指定要請書の作成に幅広い知識 と経験を持つ専⾨家も加わり、アルゴンチームができあがりました。 2014年には、厚⽣労働省の管轄下にある国⽴医薬品⾷品衛⽣研究所内に⾷ 品添加物指定等相談センター(FADCC)が開設され、アルゴンチームは、アルゴ ンの規格基準をどのように設定し、確認するかを相談センターの専⾨家との間 で集中的・専⾨的に詰めていきました。また、⼀般社団法⼈ ⽇本ソムリエ協会 をはじめ多くの研究機関、アルゴン製造企業等からも貴重なアドバイスやご協 ⼒をいただきました。このようにして、アルゴンの有効性、安全性、成分規格と その試験⽅法、経⼝による⼀⽇摂取量推計等が詳細に検討され、要請書とそれ に付属する概要書が完成しました。要請書受理とこれから これまで献⾝的に協⼒してくれた我がアルゴンチームとその周辺の専⾨家 の⽅々、また、2011年からほぼ7年間、何⼈も代替わりしながらも最後まで懇 切丁寧にご指導くださった厚⽣労働省の担当者の⽅々、皆さんの協⼒を得て ヴィレッジ・セラーズからのアルゴンを新規に⾷品添加物として認定するよう 要請する要請書は、2018年5⽉31⽇付で厚⽣労働省に受理されました。 今後は、薬事・⾷品衛⽣審議会⾷品衛⽣分科会への上程、パブリックコメン ト、WTOへの通報などを経て省令改正が⾏われ、2019年春には⽇本でもアル ゴンを⾷品に使⽤することが可能になるのではないかと期待しています。そし てアルゴンが⾷品添加物として指定された後、⽇本でも多分野にわたり実⽤に 向けた研究と有効利⽤が進み、⾷品ロスなどが多少でも軽減されれば幸いと 思っています。≪追加≫アルゴンガスは2019年6月6日に食品添加物として新規指定され、ワインや飲料などの充填ガスとして使用できるようになりました。