月刊『フードケミカル』 2019年8月号掲載【特集Interview】ワインの飲用シーンを広げる、アルゴンの食品添加物指定を申請アルゴンが6月6日に食品添加物として新規指定され、ワインや飲料などの充填ガスとして使えるようになった。申請者はワインの輸入販売を行うヴィレッジ・セラーズである。同社が新規食品添加物申請を行ったきっかけはアルゴンタンク「ワインセーヴPRO」の輸入であった。申請の背景と過程、また同品の特性など、指定に向けて8年にわたり奔走された中村芳子専務にお話を伺った。一一アルゴンを食品添加物として申請された理由からお願いします中村 今回うちで輸入販売を始めたワインセーヴという商品があります。これはオーストラリアのワインセーヴ社が製造しているアルゴン100%充填のボトルで,取り付けたチューブの先から出た、重さのあるアルゴンが開封した後のワインの表層と空気と入れ替わり、ワインの酸化を防ぐというものです。アルゴンは1990年頃から欧州で食品に使用されるようになり,徐々に世界各地に広がっていきました。ワインセープも多くのワイン愛好家や著名なソムリエなどに高く評価され,世界中で良く売れています。メーカーとしては、日本でも販売しようと考えて準備を進めていたらしいのですが、蓋を開けてみると,アルゴンが日本では食品添加物指定されていないため使えなかったのです。ヴィレッジセラーズはオーストラリア、ニュージーランド、アメリ力などの新世界のワインを中心にワインの輸入販売を行っています。そうした縁からワインセーヴのメーカーから、何とかしてほしいと話を持ちかけられたのです。一一実際に指定されるまでずいぶん時間も手間もかかったのでは中村 メーカーから「ともかくこれを売りたいんだ」とワインセーブのサンプルを渡されたところからはじまりました。2011年に相談を受け, 2012年1月から食品添加物申請に向けて動き出し、 2018年に申請書を提出して、今年の6月に指定されました。指定まで7年半かかったわけです。 私どもは食品添加物関係の知り合いがまったくいませんでしたので、最初はワイン業界を中心にいろいろな方に相談しました。たいがいは「いちインポーターができることではない」と言われました。大手のワインメーカーなどにも声をかけましたが,何かあったら協力するとは言っても,主体となって会社として動いてくれるようなところはありませんでした。食品添加物新規指定センターにも何回か通いました。ただ、厚生省の方も含めて、当初は空気中にあるアルゴンというものにあまり理解がなかったようで、通常の化学物質と同様の毒性試験などのデータを提出するように求められました。大変だったのは、害がないことを証明すること、また、使用方法、試験法、成分規格まで、申請者がデータをそろえて提出しなければいけないということでした。害がないというため、有益であるというデータを集めました。一一どのようにしてデータを集めましたか?中村 数百の論文のアブストラクトを翻訳して読み、少しでも役に立つものを探しました。ワインセーヴにアルゴンガスを供給しているガスメーカーまで遡って製造方法や原料の安全性をトレースしました。またアルゴンガスの安全性データや純度試験の試験方法、成分規格については大手ガスメーカーの協力により、何とかクリアしました。また使用基準は指定しないということで理解いただきました。安全である、毒性がないということを証明するのがとても大変だということがよくわかりました。そのようななかでも、イギリスのスーパーで行われた大規模試験の事例があったことが、安全性の面でも有用性の面でも非常に役立ちました。一一食品安全委員会から後は早かったですね。中村 やはりEPAなど貿易の自由化、輸出入の拡大が追い風になったのではないでしょうか。昨年からは専門家も厚生労働省も早く認めたい,、という姿勢が見えてきました。食品安全委員会の評価、厚生労働省の薬事食品衛生審議会での審議がともに、本当にすんなりと通り、私どもも驚いていほどです。もっと早く動いてくれたらここまでの苦労はなかったかとも思いますが、ここまでの積み重ねがあったからかもしれません。なお、国内で醸造用にアルゴンを利用する場合は、酒造法での登録が必要となります。こちらの方は現在、登録に向けての作業が最終段階に入っていると聞いています。一一今回アルゴンが指定されたことでいよいよワインセーヴが販売されるわけですね中村 やっと通関ができたところなので、まだまだこれからです。商品が手元に届いたら、 日本語の資料なども用意していきたいと考えています。この商品は500mLペットほどの大きさですが、1回1秒程度プッシュするのが推奨使用量とされていて、1本で150回の使用が可能です。まずは個人向けとワインバーや醸造所付設の試飲コーナーなどでの販売を考えています。今後は、グラスで少しずついろいろな高級ワインを楽しむことができるようなお店が増えるはずです。また今回アルゴンと係わってきたなかで,オリーブオイルやアボカドなど酸化しやすい果実野菜の処理などにアルゴンを利用すると効果があることがわかってきました。特に良いオリーブオイルほど、ワインセーブを使うことで、オリーブオイル独特の芳香な香りを長く保つことができます。一一アルゴンガスは単価は高いけれど,コストや環境にも優しいと聞きました中村 アルゴンの特長は重さにあります。空気より重いのでのでスッと入って表面の空気と1:1で入れ替わります。窒素充填ではもとの空気の8倍の量を一気に入れないと入れ替わりません。そういう意味では量が少なくて済むので効率的なガスといえます。イギリスのスーパーで行われた試験では窒素充填や空気充填の製品に比べてもアルゴン充填の製品は明らかに商品寿命が長くなっていました。ワインをおいしく最後まで無駄なく飲みきれるとともに、一般食品のフードロス削減効果も期待できます。酸素や窒素に比べると量は少ないですが、 もともと空気中に含まれているものですし、安心して使え、SDGsにも貢献できるはずです。一一他にもアルゴンを利用している同様な製品はありますか?中村 われわれが取り扱うワインセーヴのように、アルゴン100%という製品は少ないと思います。アルゴンに二酸化炭素や窒素を混合した気体を使うことで、価格帯を下げることが多いようです。またワインのグラス販売を大規模に行う店などでしたら業務用のアルゴンタンクを置いて使うこともできるでしょう。アルゴンは製鋼、溶接、半導体などの工業用にすでに広く使われていますが、食品に使用するアルゴンは工業用に比べるとそれほどの精度、純度を必要としません。ですから、国内のガスメーカーがこういったものを作ることは難しいことではないと思います。一一今後の展開は中村 アルゴンが認められることで、世界中からこれまで以上に多くのワインが入ってきて、それをグラスで気軽に飲めるようになると思います。アルゴンが使われることで、ワインとおいしい料理が広く楽しめるようになり、ワインの消費が伸び、結果的に私どものワインセーヴとワインの販売につながればありがたいと考えています。記事へのリンク:http://www.village-cellars.co.jp/pdf/news/foodchemical201908.pdf