真面目に、正確に「生産者とワインの魅力」をお伝えすることをモットーにしていますが、時として伝えきれないもどかしさを感じます。特に、素晴らしいと自信を持っているオーストラリアの酒精強化ワインに十分な光を当ててあげられていないことに多少の罪悪感さえ覚えていましたが、あるワインジャーナリスト氏の「以前のカタログの佐藤さんのコメント、ワインそれぞれの捉え方が斬新でしたね!」という一言から、佐藤ソムリエの解釈を彼らに!と結びつきました。佐藤ソムリエの独自の解釈に照らしながら、改めてオーストラリアの酒精強化ワインを愉しんでいただければ本望です。今回は酒精強化ワインについての個人的な考察を行ってみたいと思います。酒精強化 ―― 素敵な響きですね!”酒税増加”の”姿勢強化”などとは異なり、夢とロマン?を感じます(個人の感想です)。一般的にはワインにアルコールをドボドボ足して混ぜて、はい、出来上がり!と想像されている方が多いのですが(あながち間違いでもない)、細かく言いますと、果汁にアルコール(グレープ・スピリッツ)を加えるヴァン・ドゥー・リキュールと呼ばれるタイプと、発酵してからアルコール(前出)を加えて造るヴァン・ドゥ・ナチュールと呼ばれるタイプの2つがあります。どちらの方法も甘味を残し(豊富な残糖)、酒質の安定と新たな味わいの方向性を造る方法です。誕生には諸説ありまして、①おっちょこちょいな”タルト・タタン誕生説”と似た感じで、失敗から生まれた産物?―― ワインが入っていた樽に、アルコールを間違って加えてしまい、気づいて飲んだみたら美味しかったので、そこから造り方を工夫したという説、②帆船による海外貿易が盛んな頃、目的地までは水やその他の飲み物を船の底に積むことでバラスト替わりの重みで安定させ、航海しながら飲んじゃうので、帰りは空になった樽の代わりに買い付けた荷物を積んで重しにするというシステムでしたが、出発の際に普通のワインを積み込むと、船の振動と温度で傷みやすいし、船員さんとしてももう少し強いのが飲みたい。しかしアルコール度数の高いものを積むと、今度は火災が心配。「それでは真ん中をとって酒精強化にしよう!甘味で疲れも取れるし」と、その誕生には、様々な説が言われておりますが、やはり基本として“美味しい甘味”が時代を超えて愛され続けているってことですね。さて翻って、今日ご紹介する3本。ダーレンベルグならではの“とろみ”と酸の表現力 まずは素敵なネーミングで知られるダーレンベルグの、期待に違わぬネーミングセンス溢れるノスタルジア・レア・トウニー。ノスタルジーでレアなんて、それだけで昔を思い出して、目頭が熱くなりそうです。鬼才チェスター・オズボーンが取り組む数多くのワインの中でも、特に個性的なこの一本。外観には、少し熟成感を表すオレンジのトーンも感じられ、香りにはエキゾチックなフルーツのアロマに始まり、焼きリンゴや黒イチジクのコンフィが中心に。加えて甘みを感じさせるシナモンやナツメグなどのスパイスもアクセントに。口に含むとカフェ、モカ、ビターチョコレートが絡み合いながら「我も我も!」と表現してきます。しかし何と言っても“ダーレンベルグならでは”として、香り、味わいともに特徴的な酸味が溢れ(酸っぱい、というわけではありませぬ)、とてもエネルギーが感じられる立体的な構成になっていること。香りは次々に立ち上ってきますし、味わいには独特な“とろみ”が存在し、口の中を駆け巡り続けます。小さな古樽で長期熟成させた酒精強化ワインに2年毎にグルナッシュ(シラーズもあり)のこれまた酒精強化ワインを加えて、アルコール度数21.4%に仕上げます。(この“とろみ”、フランス語ではmoelleux・モワルー・柔らかい、と表現されます。“レア・トウニーに萌えるー”)#9994ダーレンベルグ・ノスタルジア・レア・トウニー (375ml) S'NVd'Arenberg Nostalgia Rare Tawny (375ml) S'NV産地:南オーストラリア州マクラーレン・ヴェイル品種:グルナッシュ/ シラーズ/ムールヴェードル/ マスカットAlc. 21.4% 残糖206.8g/L希望小売価格(税別):¥3,650-落ち着きと達観のチェンバース ゲストの前にこのボトルをゆっくりと置いて、やや低めの声で「薔薇の香りを閉じ込めてありま~す」と説明させていただきたくなる ”バラのデザインのエチケットで知られるチェンバース” のマウント・カーメル。外観には深みのある赤の色調。外観の落ち着きと同様の展開を見せてくれる香りには、赤い熟した果実、加えてイチゴのキャンディーを思わせ甘く、そして少し苦味をも連想させてくれます。味わいには落ち着いた甘みがゆっくりと広がり、酸はあくまで穏やか。前出のダーレンベルグの持つ「酸味と“とろみ”で口の中をぐるぐる回る」とは対照的な落ち着きと達観感(こんな言葉があるのかな?筆者注)、干し葡萄、丁寧に細かく挽かれたかのような心地よい甘いスパイスがゆったりと流れます。黒糖で作ったキャラメルやバタートフィーなども温度の上昇とともに顕著になってきます。シラーズ、ジュリッフ、テンプラニーリョなどの個性的な品種構成で古樽で長期熟成。#7262チェンバース・ローズウッド・ヴィンヤーズ・ラザグレン・マウント・カーメル S'NVChambers Rosewood Vineyards Rutherglen Mt.Carmel S'NV産地:オーストラリア、ヴィクトリア州 ラザグレン品種:シラーズ/ ジュリッフ/テンプラニーリョ/ グランド・ノワールAlc. 16.9% 残糖220.6g/L希望小売価格(税別):¥3,500-我が道を行きすぎる“締めの一杯”、ヤラ・イエリング 「えっ、甘くない」 。無駄に文字数を使ってしまいましたが、衝撃の印象ですね。ポートと同じ6種類もの品種を用い熟成。そのため最もポートに近い印象を持つのかな?と勝手に想像していましたが、期待を、良い意味で裏切られる個性溢れる展開です。深みのある黒みがかった赤の色調。赤い果実の香りもありながら、甘草や控えめな樹脂っぽさが鼻腔を押してきます。口に含むと予想していた甘みは押し寄せて来ず、そのため準備していた唾液は無駄に。抜栓直後は、2回の発酵によって造られるイタリア ヴェネト州のレチョート・デッラ・ヴァルポリチエッラ(赤・甘口)に近い印象。抜栓してすぐは毅然とした態度で、気持ちよいくらい?に開いてはくれません。1日くらい待って、グラスに注いで、やっと様々なスパイス香やビターな味わいを披露してくれ、そこからの奥行きを伴った表現力は見事です。様々なワインを飲んできた方の”締め”の一杯に相応しい出来栄え。我が道を行きすぎる21.5% 。高めの温度設定で是非!#3586ヤラ・イエリング・ポートソーツ '00Yarra Yering Portsorts '00産地:オーストラリア、ヴィクトリア州ヤラ・ヴァレー品種:トウリガ・ナショナル45%/ ティント/カォン45%/ ティンタ・ロリス他Alc. 21.5% 残糖58.2g/L希望小売価格(税別):¥12,500-