アルゼンチン北部の山岳地サルタ州から世界的なプレミアムワインを送り出すヘス・ファミリーの2代目ラリッサ&クリストフ・アーバー夫妻。3月の来日を前に、彼らが手がける2つのブランド、ボデガ・コロメとアマラヤへの情熱、そして現地コミュニティへの取り組みを聞きました。◆ 2つの異なるアプローチ――ボデガ・コロメとアマラヤ―― ボデガ・コロメとアマラヤ、それぞれのアプローチは異なります。コロメは先代のドナルド&ウルスラ・ヘスが始めたプロジェクトで、標高の違いを表現するプレミアムワインです。それに対しアマラヤは、2代目になる私たちが、ブレンドによるサルタワインの表現にフォーカスする試みです。アプローチは違いますが、互いに補完しあう取り組みです。いずれも造っているワインは、白はアルゼンチンを代表するトロンテス、赤はマルベックが主です。トロンテスは数少ないアルゼンチンの固有品種ですが、食事によく合います。私たちの畑があるカファジャテは標高1,700m、トロンテスに最適な環境のようで、カファジャテのトロンテスはアルゼンチン中で引っ張りだこです。ボデガ・コロメ・トロンテスは単一品種ですが、アマラヤ・ホワイトはトロンテス90%、リースリング10%のブレンドワインです。それと並んで大切な品種はマルベックで、我々が生産するワインの8割はマルベックです。◆ マルベックとヘス・ファミリー―― マルベックは、もともとはフランスの品種でボルドーではブレンドに使われていました。アルゼンチンには19世紀半ば、チリの農場にあったフランスの挿し木が持ち込まれたのが最初ですが、アルゼンチンの土壌、気候、雨の少ない高地が気に入ったようで、今ではアルゼンチンを代表する品種になりました。アルゼンチン独自の台木も開発され、コロメとアマラヤの畑もこのアルゼンチン・オリジナルの台木です。ただし、コロメの樹齢190年となる非常に古い畑の台木は直接ボルドーから持ち込まれたもので、ペルゴラと呼ばれる棚仕立てになっています。ボデガ・コロメは現存する中ではアルゼンチン最古のワイナリーで、2001年にヘス夫妻が購入するまで、一時中断時期があったものの、170年に亘ってイサスメンディ=ダヴァロス・ファミリーの所有でした。主には農業が営まれていましたが、7haの高樹齢の畑から少量のワインが造られていました。自分たちにとって重要なことは、ドナルドがコロメは宝石の原石だと気が付いたことです。2001年以降の畑はアルトゥーラ・マクシマも含め、すべてヘス・ファミリーが植えたもので、樹齢は12-20年になります。◆ マルベックの魅力と4つの畑の標高差―― マルベックは、複雑さはありますが飲みやすいワインです。ピーマンというより白コショウ風味の優しい味わいなので、樽の抽出はできるだけ低く抑えます。幸いここでは深い色合いで果実味の凝縮した高品質のブドウができます。また標高が高く、昼夜の寒暖差は25℃に及ぶため、ブドウにしっかりした酸が備わるので、重たくならない、フレッシュで飲みやすいスタイルを心がけています。標高は高くなるほど酸度が高まりフレッシュ感が出て、低くなるとより果実味が出ます。標高1,700mのカファジャテに位置する畑ラ・ブラバ(MAP④)では、今すでに収穫が始まっていますが、標高3,111mにもなるアルトゥーラ・マクシマ(MAP①)では収穫は4月、ゆっくり時間をかけて成熟していきます。コロメ(MAP③)は2,300mで、微気候としては比較的優しい環境です。2,600mにあるエル・アレナル(MAP②)の畑は砂質土壌でワインにしっかりした骨格を与え、紫外線も強く、色も一層濃くなります。3,111mのアルトゥーラ・マクシマは極端な気候で、昨年は霜の害で全滅しました。今年は大丈夫だろうと期待はしていますが。アルトゥーラ・マクシマ(3,111m)ボデガ・コロメを代表する「エステート・マルベック」は、ラ・ブラバ、コロメ、エル・アレナル、アルトゥーラ・マクシマという標高の異なる場所で育ったブドウをブレンドするという世界的にもユニークなスタイルです。ラ・ブラバ(1,700m)コロメ(2,300m)エル・アレナル(2,600m)◆ サルタとメンドーサの違い―― メンドーサでも素晴らしいワインができますが、標高が違うサルタのワインはスタイルが全く異なります。汚染のないクリアな大気、紫外線が果皮に与える影響はワインの色合いやタンニンに影響し、夜間の冷涼さがブドウの成熟をゆっくりしたものにするため、タンニンがまろやかでフレッシュなスタイルを生みます。標高の違いが大きく、メンドーサにとって標高の高い畑は、サルタにとってはまずはそこから始まる高さと言えます。◆ 世界で最も隔絶されたワイナリーの一つ―― サルタのワインはアルゼンチンワイン市場全体の2%です。人口200万のメンドーサに比べ、鄙びています。首都のブエノスアイレスから空路2時間でアンデス山脈の麓、標高1,000mほどにある人口30万の州都サルタに到着、そこから車で3-4時間かけ、カルチャキ・ヴァレーのワイン生産の中心地、カファジャテに到着します。そこからコロメまでの道は舗装されていません。4ヶ所の畑に行くのも容易ではありません。標高が異なるコロメの4つの畑は一つの急斜面に並んでいるわけではなくそれぞれ個性が際立つ別々の畑で、畑間を移動するのに数時間ずつかかります。ヴァレ・カルチャキ◆ 現地コミュニティへの取り組み―― ワイン生産は、我々の事業の大きな部分を占めていますが、コロメにはビジターセンター、著名な現代美術家ジェームス・タレルの光をテーマとする美術館、そして宿泊施設というホスピタリティ産業の面もあり、全体で500人ほどが住んでいます。すべてが従業員ではありませんが、その家族など、大切なコミュニティーのメンバーです。ここは外の世界から離れているので、子供だけでなく大人も参加できる文化的・社会的活動をサポートする必要があります。彼らが自分たちの文化を大切にしながら健康で文化的に生活できるよう、基金を創設し、取り組んでいます。