◆ ”ファミリー・オブ・12 ・ワイン・チュートリアル” に参加するまでニュージーランドを代表する12のワイナリーで組織される「ファミリー・オブ・12*」は、同国ワインの多様性と個性を世界に伝えることだけでなく、ワイン業界のリーダーたちを教育するという未来への投資を目的に、2018年より「ファミリー・オブ・12 ・ワイン・チュートリアル」というワークショップを行なっています。私は光栄なことに2019年の、つまり第2回のワークショップに参加することができました。応募にあたってファミリー・オブ・12からショートエッセイの提出を求められるのですが、その設問(10問程度)が非常にユニークなのです。今後ニュージーランドで発展が見込まれるリージョンは? ファミリー・オブ・12の関係者の中で尊敬している人物は?といった王道の設問から、もしも貴方がワイン業界の大統領になるとしたら、どんなことをしたいですか? 1つのブドウ品種を選んだら、それ以外の全てのブドウ品種が消滅してしまうとして、どんなブドウ品種が思い浮かぶ?その理由は?など、日本ではあまり経験したことのない問いもあり、色々なアイディアが浮かぶ反面、夢物語的な書き方では選考に通らないかと思いましたし、ある程度リアリティも必要と考えるとすごく難しかったです。当時働いていたオークランドのレストラン「ザ・グローブ」の同僚、アンドレア・マルティニーシ(第16回世界最優秀ソムリエコンクールにニュージーランド代表として出場し、世界14位。同チュートリアルには2020年に参加)に相談しながら何度もエッセイを作り直し、何とか提出………結果、とても嬉しいことに書類審査を通過!参加する権利を得たときは、アンドレアと小躍りしたことを覚えています。◆ チュートリアル形式のワークショップとはワークショップはチュートリアル形式で行われます。シャルドネ、ピノ・ノワール、そしてシラーなど8つのテーマ毎に12種類のワイン(メンバー・ワイナリーのワインに加え、世界中の滅多に飲むことが出来ないような大変貴重なワインも含まれます)をブラインドテイスティングで探り、20点満点で採点していきました。そしてパネルリーダー、モデレーターの前で自分の考えを明らかにし、ワインの背景、産地や気候についてディスカッションを行ないます。パネルリーダーやモデレーターのコメントを受ける前に、自分はこう感じたのでこの点数をつけているというように意見をはっきり言い、ディスカッションする必要がありました。ピノ・ノワールのフライトではフェルトン・ロードの醸造家ブレア・ウォルターやアタ・ランギの醸造家ヘレン・マスターズがパネルリーダー、シャルドネのフライトではクメウ・リヴァーのオーナー醸造家であるマイケル・ブラコビッチMWがパネルリーダーでした。各テーマに則した最高の先生のコメントを聞いて、正しい採点の仕方、採点のポイントを知ることができます。外部モデレーターのステファン・ウォンMWによるアイテムごとのコメントもまた、目から鱗でした。12名の参加者のほとんどは英語が母国語。私がオーストラリア、ニュージーランドに渡る時、多くの人から「喋らなかったら死んでいるのと同じと思われる国だからね」と言われましたが、実際に自分以外の11人 プラス パネルリーダー、モデレーターが早口かつ流暢な英語で喋りだすと、彼らの話を聞き漏らさないことに集中してしまい、自分が喋るタイミングを失ってしまいます。しかし、このチュートリアルで本当によく考えられているなぁと感じたのは、参加者は皆それぞれ全8フライト中の4フライトで、12種類中の各2アイテム、つまり8アイテムについて1分でコメントしなければいけなかったことです。「自分の意見を言わない、喋らない」は許されません。全てのワインのフラッシュコメント(外観・香り・味わい・まとめを核となるワンセンテンス、1分程度でまとめる)を書き留めるメモを渡されており、ブラインド・テイスティング時に使うペンの色と、答えが明かされた後のパネルリーダーやMWのコメントを書き留めるペンの色は分ける決まりで、自分が正しく分析できていたか、それとも全く見当違いなことを考えていたか、きちんと残すことができました。コメントの順番が自分に回ってくると、コンクールでフルコメントするようなもの凄い緊張感で顔も真っ赤になり、茹でダコ状態。皆に比べるとどうしても喋る言葉が足りない私の助けになってくれたのが、フラッシュコメントをまとめるメモでした。◆ 最高の経験と ”ベスト・コメンテーター賞”3日間に亘ったワークショップで試飲したワインは、イギリスからイタリア、アルゼンチンからジョージアに至る14ヶ国、57のワイン産地、84の異なる生産者から約2000種類に及びました。クオリティ、知名度、価格、入手の困難さという点でも世界最高水準の魅力的なワインを客観的に試飲し、ファミリー・オブ・12のメンバー、ステファン ウォンMW、オセアニアを代表するようなソムリエやジャーナリストとディスカッションし、お互いの考えを分かち合ったことは、相互理解を深める最高の経験となりました。特にシラーのフライトで、私がペンフォールズのグランジをコメントする役だったのですが、「とてもクオリティの高い、素晴らしいワイン。恐らくペンフォールズのグランジだと思う。ソムリエとして高い得点をつけるが、この高いアルコール感、加熱したような果実味、アメリカンオーク由来の甘さは、日本人には少し強すぎると推察します。こんなことを言って、オーストラリアから参加の皆さま、ごめんなさい」とコメントしたところ、ディナーの時にメンバーの生産者や、参加者が皆笑いながら「日本人はあんなにはっきり言わないと思っていたから嬉しかったよ」と言ってくれました。チュートリアル形式は、非常に効果的で、オーガナイザーの知識、経験を参加者に伝えることができると同時に、参加者もオブザーバーという立ち位置ではなく、必ず自分の意見を話す、自分の現在のワインの理解度を効果的に知ることのできる、世界的に見ても画期的な方法だと思います。自分の意見を言葉にして相手に伝え、相互理解を深めようとすることの大切さ、また仮に語学が堪能ではなくてもワインを通じてコミュニケイトできることの素晴らしさを感じました。見ている人はきちんと見てくれているもので、チュートリアル時に書き記した私のフラッシュコメント集は”ベスト・コメンテーター賞”に輝き、副賞としてアタ・ランギのクレイグホール・シャルドネのマグナムボトル、フェルトン・ロード2010年のピノ・ノワールをいただきました。ペガサス・ベイやノイドルフのシャルドネは、ブルゴーニュの著名なアペラシオンや生産者と比較しても独自のアイデンティをブラインドでさえ発見することができましたし、ピノ・ノワールも同様に、ファミリー・オブ・12 メンバーのワインのいくつかは、ブルゴーニュのグラン・クリュを含むもっとも希少な生産者と比較しても遜色なく、勝るとも劣らない実力を発揮していました。日本では、歴史やテロワールを語りながらワインを楽しむ方が多いと感じます。ただ……パリスの審判の例ではありませんが、何も分からない状態で目の前のワインと向き合う・判断する、なじみの生産者・生産国ではなく新しいものを試してみるという、少年・少女のような“好奇心“を忘れず、多様性を受け入れる寛容さが今後の日本のワイン業界にも大切だと思いました。好奇心・探究心に溢れ、常に進化しようと動き続けるニュージーランドワイン業界は、その素晴らしさを様々な人にシェアしようとする寛容さに満ちています。ワインは、造り手・売り手・買い手…… “人“がすべてです。ワイン業界の仲間たち、ニュージーランドワインのパイオニア的存在の生産者たち、影響力のあるマスター・オブ・ワインと一緒にブラインド・テイスティングをし、ディナーのテーブルを囲み、夜の飲み会をともにするアットホームなワークショップは、世界的にもこのファミリー・オブ・12・ワイン・チュートリアルだけではないでしょうか。1日も早くコロナ禍が収束し、日本から次の参加者が現れ、ファミリー・オブ・12のワインの魅力を発信するアンバサダーが増える日を心待ちにしています。「ファミリー・オブ・12」メンバーのワインから通常紹介される機会の少ないプレミアムを選び、森本ソムリエにコメントをお願いしました。フェルトン・ロード リースリング・バノックバーン 2020 (スクリューキャップ)希望小売価格 ¥4,300 / 産地:ニュージーランド、セントラル・オタゴ/ 品種:リースリング100% / Alc. 9.4% / 残糖 56g/Lエントリーに甘みを感じると同時に快活な酸が全体を引き締め、バランスがよい。中盤から余韻にはジンジャー様のスパイスと熟した柑橘類のフレーバーが合わさり、ジンジャーレモネードのような味わい。冷蔵庫に1本冷やしておいて、1日の終わりに飲んで癒される、癒し系ワイン。 辛みのある料理やスパイスをきかせた料理と相性がよく、タンドリー風の味付けの海老やチキンサテ(香辛料でマリネした南アジア風の焼き鳥)などと。ノイドルフ ムーテリー・ピノ・グリ 2018 (スクリューキャップ)希望小売価格 ¥3,850 / 産地:ニュージーランド、ネルソン / 品種:ピノ・グリ100% / Alc. 13.1% / 残糖 1.52g/Lクラシックなピノ・グリージョを思わせるエントリーだが、オイリーなテクスチャーと、比較的酸が穏やかとされるピノ・グリとしては豊富な酸を持ち合わせ、旧世界と新世界両面の顔がある。和梨や白桃の白系フルーツを基調にアニスやクローブのスパイスがしっかりと存在感を表している。 サフラン、クミン、ガーリックを使った料理との補完的なペアリングに優れ、パエリアやココナッツベースのカレーソースなどと相性がよい。ペガサス・ベイ ソーヴィニヨン・セミヨン 2017 (スクリューキャップ)希望小売価格 ¥4,380 / 産地:ニュージーランド、ノース・カンタベリー、ワイパラ・ヴァレー / 品種:ソーヴィニヨン・ブラン70%/ セミヨン30% / Alc. 14.7%外観はやや発展している。グーズベリー、マンゴーのトロピカルフルーツ、レモンバーベナーと擦ったマッチの香りが相まって、他のソーヴィニヨン・ブランにはない、唯一無二の個性。熟した果実の豊かさと熟成感から生まれる蜜ろうのテクスチャーを火薬様のトースティーな苦みが引き締めていて、かなり集中度が高く、現在飲み頃のワイン。桜鱒のおかき焼き 山葵おろし添えや、蛍烏賊と菜の花の和え物など和食とローソンズ・ドライヒルズ リザーヴ・ピノ・ノワール2017 (スクリューキャップ)希望小売価格 ¥3,500 / 産地:ニュージーランド、マールボロ / 品種:ピノ・ノワール / Alc. 13.8%やや発展した印象。熟した黒系果実、アロマティックハーブ、森の下草のようなセイボリーさが混在し、香りの幅は広く複雑で、酸は穏やか。収斂性を伴ったタンニンがワインの骨格をなしている。余韻にかけて鉄様のミネラル感、セイボリーさが現れ、重層的な発展段階が見られる。 鉄のニュアンスが豊富で樽の風味もしっかりしているので、鹿肉のローストやポークトマホーク(骨付きリブロース)の炭火焼きと。パリサー・エステート マーティンボロー・ピノ・ノワール 2018 (スクリューキャップ)希望小売価格 ¥5,000 / 産地:ニュージーランド、マーティンボロー / 品種:ピノ・ノワール100% / Alc. 13.5%さくらんぼ、バラ、ほんのりとシナモンを感じる。引き締め感のある酸がストラクチャーを作りエレガントなスタイル。タンニンはしなやかで、スムーズな口当たり。口中は香りよりもセイボリーなフレーバーが支配的で、菊やゼラニウムのような印象。酸が快活なので、肉料理だけでなく魚介類とも合わせられる。鶏肉のローストにクレイフィッシュ(イセエビの一種、NZで有名)をのせたサーフ&ターフ(シーフードと肉料理を盛り合わせる)の一皿などがオススメ。アタ・ランギ セレブレ 2018 (スクリューキャップ)希望小売価格 ¥5,300 / 産地:ニュージーランド、マーティンボロー / Alc. 13.9% / 品種:メルロ47%/ シラー41%/ マルベック6%/ カベルネ・フラン6%熟したボイセンベリー、野禽肉(ジビエ)、清涼感を与えるセージ、カカオニブの苦味、香りは何層にも重なり、複雑。ジューシーな果実味のエントリーと緻密なタンニンが特徴で、シラー由来のコショウの風味がアクセントになり、バランスを取っている。勤務していたオークランドの「ザ・グローブ」でもオンリストしていて、「何か面白くて、わぁいいね!という驚きがあるもの(somethinginteresting and stunning)」を希望するお客様の要望を満たしていた。ファミリー・オブ・12による動画 ”Why create the Tutorial?”も併せてご覧ください%3Ciframe%20width%3D%22560%22%20height%3D%22315%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2Fzy72M4YCbNA%22%20title%3D%22YouTube%20video%20player%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%22%20allowfullscreen%3E%3C%2Fiframe%3E