オンライン・インタビュー実施日:2022年5月初旬目次につづいて、ブレア・ウォルター氏のインタビュー動画およびその抄訳をご覧いただけます。前編[1-4]/ 後編[5-8]インタビュー動画 目次1. プロローグ恵まれたセントラル・オタゴとフェルトン・ロードの2022年ヴィンテージ Glorious Central Otago and its 2022 vintage at Felton Road2. コロナ禍での収穫作業・2022年収穫時期で記憶に残る出来事は? Any memorable moments in 2022 vintage?・手摘みでの収穫作業に必要なスタッフの数は? How many staff do you have for harvesting?・新型コロナがヴィンテージへ与えた影響は? How has COVID changed the vintages?3. 2016年&その後・2016年ヴィンテージ 2016 Vintage・セントラル・オタゴの深い色合いと温暖な2016年の色 Wine colours : dense Central Otago wines and warm 2016・フェルトン・ロード・バノックバーン・ピノ・ノワール2016年を試飲して Tasting of Felton Road Pinot Noir Bannockburn 2016・ヴィンテージ2016、2017、2018の違い Walk us back through the vintages: 2016, 2017 & 20184. ヴィンテージによるワインのスタイル・セントラル・オタゴでの温暖化の影響は? Any affects of global warming in Central Otago?・ヴィンテージのスタイルを造る要素は? What influences the style of wine vintage wise?・ヴィンテージにより醸造で何を変える? How do you adjust your vinification each vintage?・あなたにとってのヴィンテージとは? What motivates you and what drives you like each vintage?・フェルトン・ロードのワインスタイル How do you decide what to make and bottle each season?5. 醸造家の仕事 (ここから後編)・ブレア・ウォルターは、なぜ醸造家に? Why did you become a winemaker?・今後10-30年の人生計画は? Where do you see yourself in the next 10, 20, 30 years?・若い醸造家へのアドバイス What's your advice to young winemakers trying to find their way?6. ワインのアルコールについて・若い人のアルコール離れについて There is a trend that young people are moving away from alcohol. How do you think this will impact your winery?・美味しいノン・アルコール・ワインをつくるのは難しい? Why is it difficult to make alcohol free wines that taste good?7. フェルトン・ロードのワイン・フェルトン・ロード・シャルドネ Felton Road Chardonnay・フェルトン・ロード・リースリング Felton Road Riesling・ヴァン・グリについて Vin Gris・マクミュアー・ヴィンヤード MacMuir Vineyard・植え替え計画とは Replanting schedule8. エピローグ ―― 社会につながるウクライナへのかかわり Supporting Ukraine インタビュー動画&抄訳1. プロローグ恵まれたセントラル・オタゴとフェルトン・ロードの2022年ヴィンテージGlorious Central Otago and its 2022 vintage at Felton Road%3Ciframe%20width%3D%221280%22%20height%3D%22720%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2FkESWJTOiH6w%22%20title%3D%22YouTube%20video%20player%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%22%20allowfullscreen%3E%3C%2Fiframe%3Eセントラル・オタゴの2022年ヴィンテージはとても良かったです。ニュージーランド全体の報告書は、マールボロやホークス・ベイなど大産地の状況を反映したレポートで始まるので、生産量5%のセントラル・オタゴの状況は見えにくいですが。特に夏は良かったです。山々に守られているので、通常、雨は少ないのですが、内陸なので東の太平洋側からの強風にも守られ、生育期は何の心配もありませんでした。例年よりは少し暖かく、乾燥したコンディションの中、いつもより多少早めに収穫を始めました。果実はとてもきれいで芳醇、バランスもよく、収量も平年並みでした。 2. コロナ禍での収穫作業・2022年収穫時期で記憶に残る出来事は? Any memorable moments in 2022 vintage?%3Ciframe%20width%3D%221280%22%20height%3D%22720%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2FDQCUJamI56M%22%20title%3D%22YouTube%20video%20player%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%22%20allowfullscreen%3E%3C%2Fiframe%3E今年はこの地域で初めて感染者が出たことです。コロナ禍が始まった2020年3、4月から2年間はずっと感染者の報告が無く、世界が「コロナとの共存」と言っているこの時期に初めて身近に感染者が出たのです。醸造はたった4人で行っているので、絶対に感染するわけにはいきません。幸い無事にほぼ終わりました。もう一つは、オーナーのナイジェル・グリーニングが2年ぶりにイギリスから来ることできたことです。彼は料理上手で、素敵なランチをたびたび作ってくれました。・手摘みでの収穫作業に必要なスタッフの数は? How many staff do you have for harvesting?%3Ciframe%20width%3D%221280%22%20height%3D%22720%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2FtOlPFGP9ZnE%22%20title%3D%22YouTube%20video%20player%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%22%20allowfullscreen%3E%3C%2Fiframe%3Eワイナリーでは通常5人がブドウの選別から発酵・樽詰めに至るまで、すべてを行っていますが、今年は主に4人でこなしました。畑での収穫は、今までは若いバックパッカー達が手伝っていましたが、皆帰国し、新たに入国もできないので、ほぼ100%ニュージーランド人、50人ほどで収穫しました。ほとんどが地元の人達で、収穫期の3週間だけに来てくれた人もいます。収穫時の人手を確保できなかったワイナリーは、妥協せざるを得ず、今年はセントラル・オタゴでも例年以上に機械収穫が行われました。フェルトン・ロードでは今後も手摘み収穫を続けていきます。・新型コロナがヴィンテージへ与えた影響は? How has COVID changed the vintages?%3Ciframe%20width%3D%221280%22%20height%3D%22720%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2Fr3OWqcwHuUo%22%20title%3D%22YouTube%20video%20player%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%22%20allowfullscreen%3E%3C%2Fiframe%3E コロナ禍以前は、畑にはフルタイム・スタッフが8人、夏場はこれに12〜15人のスタッフが加わり、キャノピー・マネジメンなどの作業を手伝い、そのまま収穫まで残っていました。彼らはフランス、ドイツ、スイス、北米、オーストラリアなど、ワイン生産国の若者達で、チームに活気を与え、私たちもその雰囲気を楽しんでいたので、とても残念です。当初、何人かは母国に帰れず「コロナ難民」になっていましたが、ワクチン接種が進み、母国の状況が緩和されると、皆帰国し、ほぼニュージーランド人だけになりました。例年なら今頃は、来シーズンの作業に沢山の若者が応募してくる時期ですが、まだ反応は無いです。また若者が旅行をし出すと変わると期待しています。セントラル・オタゴでは人手が必要です!3. 2016年&その後・2016年ヴィンテージ 2016 Vintage%3Ciframe%20width%3D%221280%22%20height%3D%22720%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2FwFq_htVYfPo%22%20title%3D%22YouTube%20video%20player%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%22%20allowfullscreen%3E%3C%2Fiframe%3E 2016年は、生育期は温暖で、収穫時期6週間前の2月に暑い日が続き成熟が早まり、収穫も早くなりました。2022年と似ています。果実が色づくヴェレゾン時期に強い日射が続くと却ってアントシアニンの定着が減少するようで、2016年は、同じく暖かかった2017年や2018年よりもボディと色づきが軽やかになっています。アルコール度数は、例年14%ほどのところ、13.5%と多少低めでした。暖かい年にアルコール度が低いのは皮肉ですが、温暖な年は糖度が上がる前に風味が熟すので、低い糖度でもバランスの良いワインができます。2017年がかなりしっかりとしたフルボディであるのに対し、2016年はフィネスと透明感があります。・セントラル・オタゴの深い色合いと温暖な2016年の色 Wine colours : dense Central Otago wines and warm 2016%3Ciframe%20width%3D%221280%22%20height%3D%22720%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2F02JogjHElgo%22%20title%3D%22YouTube%20video%20player%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%22%20allowfullscreen%3E%3C%2Fiframe%3E2016年の色合いが軽やかというのは相対的な話です。セントラル・オタゴのピノ・ノワールは色が濃く、風味がしっかり凝縮しているので、自分たちが、軽やかで繊細だという年は、海外ではブルゴーニュのようだと喜ばれるのです。まだかなり若い印象ですが、瓶内熟成5年を経過し、一次アロマは無くなり熟成感が少しずつ表れてきています。少なくともあと10年は進化するでしょう。・フェルトン・ロード・ピノ・ノワール・バノックバーン2016年を試飲して Tasting of Felton Road Pinot Noir Bannockburn 2016%3Ciframe%20width%3D%221280%22%20height%3D%22720%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2F2_KO3EB-as4%22%20title%3D%22YouTube%20video%20player%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%22%20allowfullscreen%3E%3C%2Fiframe%3E昨夜、香港からのインタビューを受け、2020年をいくつか試飲したばかりですが、確かに2016年には美しい透明感、エレガンスと繊細さ、緻密な骨格を感じます。どっしりとした濃厚なワインではありませんが、美しい香りがあります。過熟した感じはなく、私たちが求めている果実味がきれいに表現され、フェルトン・ロードの特徴であるシルキーなタンニンがあります。今試飲したのは、ピノ・ノワール・バノックバーン2016です。コーニッシュ・ポイント、カルバート、マクミュアー、エルムズの4つの畑のブレンドです。・ヴィンテージ2016、2017、2018の違い Walk us back through the vintages: 2016, 2017 & 2018%3Ciframe%20width%3D%221280%22%20height%3D%22720%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2FpHZnWc4dZ7U%22%20title%3D%22YouTube%20video%20player%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%22%20allowfullscreen%3E%3C%2Fiframe%3E2017年は冷涼で、2018年は暖かい年でした。2018年は、2016年より少し深みと凝縮感があります。2016年は透明感があり、エレガントで繊細な骨格を備えています。4. ヴィンテージによるワインのスタイル・セントラル・オタゴでの温暖化の影響は? Any affects of global warming in Central Otago?%3Ciframe%20width%3D%221280%22%20height%3D%22720%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2FBDry4kFpBbk%22%20title%3D%22YouTube%20video%20player%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%22%20allowfullscreen%3E%3C%2Fiframe%3E今年は私にとっては26回目の収穫です。確かにここ5~7年は、初期の5~7年に比べると暖かいと言えますが、さほど大きな違いではないです。ニュージーランドは南極海の真ん中にある小さな島国なので、気候変動の影響はヨーロッパ大陸ほどではありません。しかし、2019年、2020年、2021年は例年並みか若干涼しく、2022年は2018年以来最も暖かなヴィンテージでしたので、毎年暖かいというわけではありません。・ヴィンテージのスタイルを造る要素は? What influences the style of wine vintage wise?%3Ciframe%20width%3D%221280%22%20height%3D%22720%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2FZJJkWe-qPMY%22%20title%3D%22YouTube%20video%20player%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%22%20allowfullscreen%3E%3C%2Fiframe%3Eワインのスタイルに影響を与えるのは、いつ暑かったか、または、いつ暑くなかったかです。2016年は早い時期に暑かったので、もっと暑かった2018年以上にワインの色と深みに影響が出ました。・ヴィンテージにより醸造で何を変える? How do you adjust your vinification each vintage?%3Ciframe%20width%3D%221280%22%20height%3D%22720%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2F237oiaVofzs%22%20title%3D%22YouTube%20video%20player%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%22%20allowfullscreen%3E%3C%2Fiframe%3E醸造に際してはあらゆる要素を考慮しますが、フェルトン・ロードにとって最も大きな変数は全房発酵の比率です。2016年のような年は、透明感が強いと同時に熟度も高い、という2つの相反する要素がありました。果実も梗も良く熟しているので全房を多くしても良いように思えますが、果実の成熟が早すぎたので、果実には梗の風味とバランスをとるには充分な深みと凝縮が無いかもしません。その場合、青い風味がワインに出ないよう全房割合を抑えます。冷涼な年は、当然、果実と梗からの青さが強くなり過ぎないよう全房を控えます。最終的に毎年20-25%の全房比率に落ち着きます。全房比率が30%や35%を超えると、茎っぽさや全房の特徴がワインに強く出過ぎます。私は全房発酵といった醸造の技術面ではなく、畑の個性を感じてもらいたいと思っています。・あなたにとってのヴィンテージとは? What motivates you and what drives you like each vintage?%3Ciframe%20width%3D%221280%22%20height%3D%22720%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2Fcy6YsmKoFK4%22%20title%3D%22YouTube%20video%20player%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%22%20allowfullscreen%3E%3C%2Fiframe%3Eワイン醸造がユニークなのは、ブドウの収穫は年に1回だけで、ワインを造るチャンスはその時しかないことです。幸い私はフェルトン・ロードに26年間いますが、毎年驚くほど違います。全く同じという年は無いので、ヴィンテージ初日にやってきて、今回は簡単だとか、去年と同じだとか、やり方は分かっていると思うことは全くないです。ブドウの成熟具合は毎年違うので、ワイナリーでどう扱うかもおのずと変わってきます。収穫されたブドウを見て、自分の知識や過去の経験をもとに発酵計画を立てますが、時にはセラーから何本かのワインを取り出し、チームでじっくり検討することもあります。栽培や醸造には常に新たな学びがあります。・フェルトン・ロードのワインスタイル How do you decide what to make and bottle each season?%3Ciframe%20width%3D%221280%22%20height%3D%22720%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2FUiRtzw0ptBo%22%20title%3D%22YouTube%20video%20player%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%22%20allowfullscreen%3E%3C%2Fiframe%3E畑の名のついたワインの魅力は、その畑の特徴や個性が、毎年、表現されることです。素晴らしい品質の時のみリザーヴとしてボトリングするのとは方向性が違います。セントラル・オタゴはヴィンテージ条件が安定しているので、ヴィンテージの違い以上に畑の個性が表れます。愛好家の方々もその点を楽しんでくれているので、毎年、畑別のワインをリリースしています。後編へつづく