新しい単一畑ピノ・ノワールのリリース、一方でシャルドネとリースリングの生産量の減少、今年2月のサイクロンの影響など気になることが多々あり、ぜひフェルトン・ロード現地の様子を聞きたいと、今年の収穫が少しずつ落ち着いてきた5月、醸造家ブレア・ウォルターにようやく時間を確保してもらいました。 ◆ セントラル・オタゴとフェルトン・ロードの2023年ヴィンテージブレア ―― 2023年の収量は、平均を多少下回りましたが、まずまずでした。2022年の収量が少し多かったので、平均するとちょうどよい感じです。2023年は素晴らしいワインになると思います。今から楽しみです。夏から収穫期にかけては運よく天候に恵まれました。とても暖かく、かなり乾燥した天候だったので、収穫は早まりそうに見え、収穫を急ぐ必要があるように思われました。暖かく容易な年の場合、ワインはどちらかというと単純になりがちで、奥深さや複雑さが出にくいのです。そのため心配になって、ピッキング要員を増やし、収穫期間を短くできるよう準備していました。ですが、2月20日に大雨が(と言っても50㎜ですが)降り、その後の6週間、そこそこの雨と冷涼な気温が続いたため、ブドウの成熟速度が落ちたので助かりました。このときのサイクロンによって北島を中心に大変な被害が出ましたが、セントラル・オタゴでは雨は多かったといっても問題になるほどではなく、雨によるダメージも病気も貴腐の心配もありませんでした。却ってワインに、より複雑さと個性が備わることにもなりました。私の知っている限り、セントラル・オタゴの醸造家は、誰もが2023年ヴィンテージに満足しています。例年とは違って収穫時期直前に雨が降り、4月初旬に寒気が来ました。サザリー(southerly)と呼ばれる南からの寒気の強い嵐が山に雪を降らせました。しかし、そのおかげで果実の成熟スピードが落ち、自分たちには恵みの寒気となりました。 ◆ ピノ・ノワール : 単一畑マックミュアーの新リリース―― マックミュアー・ヴィンヤードのブドウは2015年から使っていましたが、単一畑ピノ・ノワールとしてリリースするのは2021年が最初です。元々はカルヴァート・ヴィンヤードの一部で牧草地と農園になっていた土地で、2001年からフェルトン・ロードが世話をしていました。2010年に買い取り、2012年からブドウを植え始めました。栽培面積は5.1haです。マックミュアーはカルヴァートと比べると分かりやすいです。2つの畑は200mしか離れていませんが、マックミュアーのほうが低地にあり、より重い土壌です。養分のある厚い表土がカルヴァートに似たシルト土壌を覆っています。カルヴァートはマックミュアーより少し高台の小さな平地で、両側に小川があり、風当りや日照もマックミュアーより強く、ブドウにはよりストレスがかかります。粘土質を含む、より重いマックミュアーの土壌が香りのよさと滑らかなタンニンを生みます。カルヴァートより肉付きがよく、甘いチョコレートを思わせます。カルヴァートはもっとミネラルが感じられ、タイトで角のあるタンニンです。 ◆ シャルドネ : 近年の収穫減と将来への展望―― 2020年と2021年につぼみの付きが悪く、シャルドネの収量が大きく下がりましたが、ちょうどそのタイミングでシャルドネの植え替えを行っていました。植え替えも終わり、まだ若い樹もありますが、新しい樹が実をつけだしているので、収量も元に戻ると期待しています。来年は以前に近い収量に戻ると思います。加えて、カルヴァートの1.3haほどの斜面に植えたシャルドネを今年初めて収穫しました。シャルドネの植え替えは、果実の質を向上させることが目的でした。この数年、セントラル・オタゴのシャルドネに対する興味が高まり、栽培の仕方に対する理解が深まり、醸造家もその取り扱いに慎重になりました。ここのシャルドネはシャブリに似たところがあり、酸が高く、洗練され、デリケートでエレガントです。果実味はそれほど重くも豊潤でもなく繊細なので、オークを控えめに、慎重な取り扱いが必要です。世界的にもセントラル・オタゴのシャルドネの品質の高さに興味が高まっています。現在ブルゴーニュの白の価格が高騰していることも注目が集まる一因でしょう。 ◆ 25周年にあたる2021年ヴィンテージ―― 昨年瓶詰めをした2021年ヴィンテージはフェルトン・ロード25回目のヴィンテージです。それを記念して、過去に造ったワインを開けたり、正式な10ヴィンテージ垂直試飲なども行いました。そうして比べてみると、最近のヴィンテージは、より緻密で繊細、きめ細かな優雅さがあることに気づきます。樹齢が若い時は、野心的に抽出を強くして、パワーのあるワインを造ってきました。それが今までの自分たちの評判をつくってきてくれたわけですが、樹齢の高まりとともに、ワインがよりきめ細かく繊細でエレガントにその土地らしい個性を表現するようになってきました。まさに樹齢の成熟と醸造家の経験を反映していると言えます。樹が若いときは果実の個性が出ないので、自己表現をするワインを醸造によって一生懸命造ろうとしてきました。しかし樹齢が高まると、ワインは醸造家が余計なことをしなくとも、自分で自己表現をしてくれるのです。