◆新たに認可されたAVA「ヴァン・ダザー・コリドー」モーガン――ヴァン・ダザー・コリドーと他のAVAとの大きな違いは気候です。ヴァン・ダザー・コリドーは、太平洋沿岸から東西へ走る大きな割れ目で、その割れ目に沿って海から内陸へと冷風が流れ込み、ウィラメット・ヴァレー全域を冷やします。風は内陸へ流れこむとエオラ・アミティ・ヒルズにぶつかり、そこから南北へ流れます。夏の暑い午後はこの冷たい風が暑さを和らげ、それほど暑くなければ気温の変化は少ないです。収穫期は、温暖な年はウィラメット・ヴァレー北部よりも2ー3週間遅くなりますが、穏やかな年は北部とほぼ同じです。この冷風の影響でブドウの果皮は厚くなりますが、タンニンが増すわけではなく、色調が濃い複雑なワインとなります。◆ ヨハン・ヴィンヤーズ:土壌と畑―― ウィラメット・ヴァレーの土壌はミズーラ洪水*がもたらした海洋性堆積層か火山性土壌です。ここヴァン・ダザー・コリドーは海洋性堆積土壌ですが、向かい側に位置するエオラ・アミティ・ヒルズの中腹部は火山性です。このすぐ南は一旦狭まってからウィラメット・ヴァレーへと開ける地勢でその場所はミズーラ洪水によって大量の水が北から南に流入した時にダムの役割を果たしました。その際大量の花崗岩が流れ込んだので、ブドウ栽培を始めた当初10年ほどは畑から大きな花崗岩の塊がゴロゴロ出てきました。私たちのワインは海洋性堆積物や海洋性土壌の特徴を示し、フローラルでスパイシーな風味に裏打ちされた深い果実香、しっかりとフォーカスがとれた酸があります。ダグが2005年にこの土地を購入した時は、2002年に植えられたピノ・ノワールとシャルドネがちょうど最初の実をつけた時で、ブドウのほとんどは地元のワインメーカーに売られていました。ビジネス経験のあるダグは、リスク分散のため、品種を増やして多様化することが大切だと考えました。2007年に栽培家として加わったダン・リンクは世界のワインに造詣が深く、オレゴンの気候に類似した地域の品種の可能性を探りました。2010年から始めた接ぎ木プロジェクトはブラウフレンキッシュとグリューナー・フェルトリーナーを含むオーストリア品種で、お試しで1エーカーずつ植え、その後はうまく適応するものを徐々に増やしていきました。◆ 才能あふれる異色の醸造家―― 大学では金融と国際ビジネスを専攻しました。一度は金融の仕事に就いたものの直ぐに辞め、大好きなスキーをしながら夜はレストランで働きました。それがきっかけで、ワインの世界を知り、ワインスクールに通い醸造学とブドウ栽培に惹かれるようになりました。ワイン造りに関しては正式な学位を取得していなかったので、できるだけ多くの醸造家の下で働き、経験を積むことにしました。自分にとってピノ・ノワールとバイオダイナミック農法が大切なテーマになり、ニュージーランド、オレゴン、チリで働きました。またブドウ栽培の経験を積むべくカリフォルニアの畑管理会社で2-3年働き、ブドウの成長期を通して様々な畑やブドウ品種に関わりました。2015年、たまたま出会ったヨハンのシャルドネに強い衝撃を受け、翌日すぐにダグとダンに会いに行き、ヨハンで働くことになりました。2015年後半からはダンのアシスタントでしたが、2018年の収穫直前、ダグとダンは私を正式にワインメーカーに指名しました。以降、私はフルタイムで醸造に関わるようになり、2020年の春には、ゼネラル・マネージャーに昇進しました。ワイナリーの隣のヴィンヤード(秋景色)モーガンとダン・リンク◆ シャルドネ、グリューナー・フェルトリーナー、ブラウフレンキッシュ、そして樽―― 私はヨハンの畑で育つ鮮やかな塩味のシャルドネが好きです。ヴァン・ダザー・コリドーの果実には、熟した果実風味に見合う十分な酸がバランス良くあります。私が働き始めた時は毎年、3-4樽しか造っていなかったのですが、今シーズンはシャルドネを10樽造りました。グリューナーの挿し木は、ヨハンのすぐ南の栽培農家から調達し、ブラウフレンキッシュは北部コロンビア・ゴージから取り寄せました。ブドウが十分に熟さない場合、白ワインは細身のスタイルに仕上げられますが、赤ワインにはリスクがあります。その点、ヨハンのブラウフレンキッシュは素晴らしく、毎年目指す熟度に達してくれます。年によっては、少し細身でアルコール度が低い時もありますが、そんな年は黒コショウとフローラルな香りがよりはっきり感じられます。ダンは当初とてもシンプルに醸造していました。ブラウフレンキッシュは全てを除梗して旧樽で発酵させ、グリューナーも同様に、直接圧搾機に入れ、搾汁してから旧樽で発酵していました。その後数年かけてブドウの表現を研究した結果、2017年からは果汁の一部をスキンコンタクトしたり、一部に今までよりも若い樽を導入したりと、小ロットで醸造して色々なブレンドの可能性を探っています。 昨年まではシャルドネにだけオークの新樽を使っていました。白ワインは、新樽はまずシャルドネに使い、使い込まれてから他の品種に回すのです。これまでグリューナーはいつも500Lのパンチョン樽で発酵・熟成していました。しかし今年は初めてグリューナー用にアカシアの樽を購入しました。アカシア樽はワインに超微細なタンニンとエキゾチックな桃の香りを与え、トースト香はフレンチオークよりもナッツの風味が加わります。グリューナーのラベル(画:Yong Hong Zhong)◆ 畑が教えることと自然な醸造―― 私たちは小さなチームで、自分たちで畑を耕します。畑の生育状況から、セラーでワインを仕込む時に発酵と熟成の段階で何をすべきかが分かってきます。例えば、生育期に土中の水分が少ない年は、発酵中に酵母が必要とする栄養素も少ない可能性があるので、発酵中は温度管理や酸素管理に注意を払います。今シーズンは、9月の収穫直前に山火事があったので、ワインに影響を与えるリスクをできるだけ少なくするよう発酵や圧搾などを調整しました。ブドウを摘み取るタイミングは糖度の数値に頼るのではなく、ブドウの風味で決めています。ここは冷涼なので、ブドウの風味が備わった時に酸と糖もそれに見合うレベルになるのは恵まれています。ここでは培養酵母や菌を使ったことはありません。セラーに生息するすべてのものはブドウと一緒に持ち込まれるか、収穫期にセラー内で生成されたものです。赤ワインの発酵は、通常の醸造方法より少し長く、14日から20日かけます。白ワインはさらに長く、まさに「低温で、ゆっくりと」発酵させます。ワインは絶え間なく発酵を続け、酵母は糖を食べて二酸化炭素を生み出し、ワインの酸化を防ぎます。今セラーにあるグリューナーの樽は1年3ヶ月経ってもまだ発酵しており、イオウ香もなく、驚くほど複雑です。◆ これからのヨハン――この場所らしさを表現するため鶏やアヒルや羊を飼ったり、より自然な環境を守っていくと同時に、この地域の一員としてバイオダイナミック的アプローチで学校や社会のコミュニティと関わっていくつもりです。現在ブドウは16品種を栽培しています。今後はグリューナーとブラウフレンキッシュ、ムロン・ド・ブルゴーニュなど自分たちが魅力を感じるワインに絞って生産量を増やし、供給量の確保を目指します。ブドウやワインがシーズン毎に成長するように、自然の中で自分たち自身への理解を深め成長していくプロセスはとても楽しいです。グリューナの房* 氷河期の終わり、当時存在したミズーラ湖(モンタナ州)の凍った堰が決壊してワシントン州東部を横切り、コロンビア川渓谷周辺を繰り返し襲った大洪水。《ヴィレッジ・セラーズより》ヨハン・ヴィンヤーズとの最初の出会いは、オレゴンの生産者団体が毎年主催する「オレゴン・ピノ・キャンプ 2015」にワインテイスターの大越基裕氏とともにヴィレッジ・セラーズのスタッフが招待されたことだった。二人がヨハンのピノ・ノワールだけでなく、それ以外のすべてのワインの風味・バランスに感嘆し、ぜひヨハンを日本にも紹介したいということになった。問題は生産量の少なさで、自社ラベルのシャルドネは今でも全生産量が700ダース、日本に10ダースだけ分けてもらいあっと言う間に売り切れたムロン・ド・ブルゴーニュも全生産量100ダースのみとのこと。今後も「スポット」商品が色々出てきそうな面白い生産者で、醸造家のいう供給量の向上が待ち望まれる。