◆ マールボロ:産地としての特色―― マールボロは、ブドウ栽培に大変適した産地です。温暖ですが暑くなく、日中は太陽光に恵まれ、夜は気温が下がります。このような気候で育ったブドウは、ワインにその風味と酸の特徴がしっかり残ります。特にNZで最も多く生産されているソーヴィニヨン・ブランには最適で、さらに2番目の生産量のピノ・ノワールにも完璧、白赤トップ2種に強いという恵まれた産地です。ピノ・ノワールは最適な気候条件が揃えばよいものができますが、マールボロのソーヴィニヨン・ブランは、そのスタイルが畑の表現そのものなので、世界の他の産地とは異なり、真似できるようなものではありません。LDHのワインはどれも単純に畑の表現で、醸造テクニックで造るものではありません。 マールボロの比較的新しい土壌、気候条件、クローンの種類、そして栽培方法が弾けるような明るさと美しい風味を備えたソーヴィニヨン・ブランを生みます。強い紫外線が果皮を厚くし、果皮に含まれるフェノールがパッションフルーツの風味を生み出すともいわれていますが、何か1つの要素ではなく、さまざまな要因が影響しあうことによるものと思います。 明るさ、美しい風味などの基本的な質は畑で決まります。畑ではブドウの世話をして風味が最適な時に収穫し、タンクに入れ、樽で自然発酵させるか、場合によりスタイルは変わりますが酵母を添加します。例年通り開花してくれれば結実後に畑で除房などの作業をしなくともブドウはきれいに熟し、ワイナリーでの余計な作業もなく、最も大切な点ですが、上質なワインができます。◆ ローソンズ・ドライヒルズの発足―― これは面白い話なのです。1970年代、ロスとバーバラ・ローソンは現在LDHのワイナリーがある場所に数haの土地を購入し、その代金を稼ぐため、ロスはポッサム(有袋類の小動物)狩りを始め、バーバラが塩を使ってなめした皮を売っていました。ロスは70年代後半にブドウ畑の管理やブドウ栽培の仕事を始めました。当時はカスクワイン(箱入りのワイン)を製造するための大手企業がいくつか設立された頃で、そのうちの一社がロスにゲヴュルツトラミネールを植えるように依頼しました。当時彼は「ゲヴュルツトラミネールって何?」と思ったかもしれませんが、「もちろん!」と即答、1981年から1982年にかけてゲヴェルツトラミネールを植えました。しかし、90年代初頭に「もう不要!」と買い取りを拒否されることになりました。 ロスは意志が強く、自分たちのブドウはかなりよいと考えていたので、自分でワイン会社を立ち上げたのです。1992年が最初のリリースで、自分たちの畑からゲヴュルツトラミネールと、マールボロですから当然ソーヴィニヨン・ブラン、そしてロスはシャルドネ以外飲まなかったのでシャルドネも数樽造りました。◆ 拡大するローソンズ・ドライヒルズ―― 当初の畑はおそらく5haほどの小さなものでした。今はそこにワイナリーと倉庫が建っているのでもっと狭いです。ソーヴィニヨン・ブランは素晴らしい品種で、最初の15年ほど、収穫するとすぐによい価格で売れました。8月に瓶詰めすればすぐに現金が入り、そのお金で苗木と土地を購入、すぐに苗木を植えることができました。それほど回転が速かったです。LDHはそうして徐々に畑を取得、土地を購入して植樹、さらにはいくつかの区画をリースしたりしました。ちょうど今アワテレの一画に植樹しているところで、なかなかよい感じです。◆ どこのどんなブドウを使うか、それが問題です―― ソーヴィニヨン・ブランの味は育った地域により味が変わるので、地理的な味わいの多様性が大切です。ローソンズ・ドライヒルズ・ソーヴィニヨン・ブランは、地域が異なる畑のブドウをブレンドするため、多様な複雑さがあります。畑があちこちにあるということは、多様性の追求だけでなく、リスク分散にもなります。ここは冷涼な気候なので、収穫時にブドウの病気や降雨など、問題が発生する可能性があります。頻繁には起こりませんが、起こった場合、特に完熟しているほどブドウは雨に敏感です。畑は地理的に分散しているため、収穫期間は1か月にわたります。数日後に降雨が予測される場合、熟したものは何でも雨の前に収穫し、降雨後、数日置いて乾燥させて収穫を続けます。熟度が進んでいないブドウは、雨の心配はありません。 アワテレ・ヴァレーでよい畑が入手できれば、ブドウを完熟まで待って収穫してからもグリーンなニュアンスが残り、トロピカルフルーツ、メロン、パッションフルーツからピーマン、ハラペーニョ(青唐辛子)まで、風味スペクトルのさまざま特徴が得られます。◆ マールボロのサブリージョンの土壌と地形―― マールボロには3つのサブリージョンがあります。ワイラウ・ヴァレーは、ワイラウ川の北側では砂利が非常に多く、表土があまりありませんが、南側の土壌は粘土を多く含んでいます。ワイラウ・ヴァレーの南のサザン・ヴァレーは状況が異なり、数千年の間に川が経路を変え、また小さな川もあり、純粋な砂利質から粘土質まで様々な土壌が混在して広がっています。私たちはどの品種も粘土質土壌で育ったものが好きですが、特にピノ・ノワールに芯を与えるようです。沿岸に近づくほど、シルト土壌が基調になります。 アワテレ・ヴァレーは、土壌がかなり混ざり合い、場所によって大きく異なります。日照時間は他と同じですが、やや風当たりが強く、それがワインにグリーンのニュアンスを与えます。一般的に収穫も遅いです。マールボロ全体が海洋性気候で、沿岸に近いほどシルト土壌が多く、海岸に非常に近い場所では、塩分の影響も感じます。 ソーヴィニヨン・ブランではこれらの違いをワインに表現することが大切です。ワイナリーを訪れる人たちは、LDHが地域が異なるソーヴィニヨン・ブランを個別に発酵させ、さまざまなスタイルと特徴のあるワインを造っているのを見て驚きます。マールボロは地域による特色をきれいにワインに反映させることができる素晴らしい産地であることを、自分たちのような小規模な生産者が守り伝え、未来へとつなげていく意味があります。◆ LDHでのブドウ栽培とワイン醸造の進化―― 私が入った当初は、ブドウ栽培もワイン醸造も、レシピをなぞるようにほぼ同じことを規則的に繰り返していました。しかし私たちは状況に応じて、即決定対応する能力が格段に向上し、今では、もっと繊細になりました。 「この畑のブドウはこういう特徴があると毎年経験している。だからいつまで待っても他のブドウのようにパッションフルーツ風味は出ないので少し早めに収穫したほうがよい」というようにブロックごとに検討し、最大限の活用ができます。 醸造での最大の進化は、技術的に最新かつ信頼性の高い機器への投資ができたことです。自社の収穫機があるので、果実の品質を最大限に引き出すため、必要なことを必要な時に必要な速度で行うことができます。ワイナリーには優れた設備があり、前段階処理やブドウ圧搾に多額の投資をしています。必要であればほぼすべてを約10日で行うことができます。 重要な決定の一つは収穫です。ブドウは収穫すると、そこでワインとしての可能性は決まります。ワイナリーで可能性を下げることはできますが、高めることはできません。◆ 果実の質と樹齢―― LDHのピノ・ノワールは、品質がどんどんよくなっています。ブドウの樹齢が高まっているのが大きな理由です。2019年には自分たちのワインを見直し、コンサルタントを呼んで一緒に試飲し、ブルゴーニュ各地も訪問し、また長年にわたってFamily of Twelve*のメンバーと彼らのワインについて話し合ったりしました。究極の目標は、果実の風味が自分の地域を反映していることです。私たちのブドウには素晴らしい鮮やかさと酸味があります。次の問題は、それをどのように仕上げるかです。タンニンを強くするのか、それとももう少し柔らかさを持ったきれいな凝縮感を持った仕上がりにするのか。私たちは2020年以降、後者のスタイルを目指しています。しかし樹が若いときは、そのようにできなかったと思います。 一方ソーヴィニヨン・ブランは、25年近く経った樹は収量と果実の品質が低下しているため、再植樹プログラムを始めるところです。樹齢だけでなく、ブロックによってはブドウ樹の幹に病気が発生したものもあります。これはLDHだけでなく、マールボロ全体でソーヴィニヨン・ブランの植え替えがかなり進められています。アワテレ・ヴァレーの新しい畑は、将来はより乾燥すると見て、干ばつに強い台木を使って接ぎ木しています。◆ サステイナビリティの指針―― ワイン業界は全般的に非常によくやっています。LDHは、以前からSustainable Wine NZの認証を受けてきましたが、そこからさらに一歩進め、環境保護のための国際的な管理認証ISO14001を取得しました。そこに到達するのには時間がかかりましたが、ISOを導入したことで、市場から素晴らしいことと予想外の高い評価を得ました。ISOシステムの一部は持続的な改善に関するもので、次の段階は、カーボンニュートラルです。2024年現在、LDHはISO14001(環境管理)とISO14064(カーボンゼロ、2021年認定)の両方の認定を受けているNZで唯一のワイン生産者です。 私を含むLDHのスタッフにとって、持続可能性は、自分たちの価値観を反映するものですが、それには詳細な作業が必要で時間もかかり、検証に費用が発生するなど、犠牲が伴います。それでもLDHではワインの品質と同様に、自分たちの取り組みにも強い自信を持っています。*ニュージーランドの家族経営プレミアムワイナリー12社が、セミナーなど自分たちのワインの普及活動を国内外で協力して行なうため、2005年に組織したグループ。マールボロ(GI): マールボロのワイン産地としての歩みは、1973年、モンタナ・ワインズがワイラウ・ヴァレーにブドウ畑の大規模開発を行ったことに始まる。1980年代にはマールボロのソーヴィニヨン・ブランがニュージーランドを国際的なワイン産地に押し上げ、飛躍的成長を遂げた。現在、約30,000haにまで広がったブドウ畑は、NZ全体の栽培面積の2/3に相当し、全輸出量の85%を占める。その牽引役はソーヴィニヨン・ブランで、全ワインの85%を占め、エレガントなピノ・ノワール、シャルドネ、アロマティック品種がそれに続く。参考 Appellation Wine Marlboroughhttps://www.appellationmarlboroughwine.co.nz/introducing-the-wine-map-of-marlborough