◆ワイン造りを始めたきっかけと自身のワイナリーを興した理由ボブー一 私の曽祖父母が1800年代後半にナパ・ヴァレーに定住して以来、家族はこの地で暮らしてます。私が育った頃は、ラザフォード郊外に12haのブドウ畑と24haの牧草地を持っていました。当時、そこはナパでも非常に大(左)サマンサ・ミューラー(右)ボブ・ミューラーきな私有地の一つで、ジンファンデル、カリニャン、ゴールデン・シャスラ、ナパ・ガメイ、シュナン・ブランを栽培し、他の生産者にブドウを売っていましたが、自分たちでワインは造っていませんでした。1960年代までナパ・ヴァレーには牛の牧場やプルーン、クルミ、サクランボなどの果樹園が数多くあリましたが、1960年代後半になると、ブドウが人気を集め、あらゆる場所で栽培が始まり、今ではナパ・ヴァレー全体がブドウ畑です。私はUCデイヴィス校で歴史を専攻しましたが、家業のブドウ栽培ビジネスは面白く、次第に醸造もやってみたくなりました。ある年、自宅でワインを造ってみました。ジンファンデルです。醸造過程でいろいろと決断を下し、ブドウという原料をその結果としてのワインにするのです。それは体だけでなく頭も使う仕事で、そのプロセスがとても楽しかったのです。今ではナパ・ヴァレーには何百ものワイナリーが存在していますが、当時は10本の指で数えるほどでした。昔から常にワイン造りは行われていましたが、最初はフイロキセラ、その後の禁酒法により壊滅的な状況でした。その頃ワインを造っていたのは、宗教儀式に使うためか、細々とワイン造りを続けていた人たちだけでした。50年代以降になってやっとモンダヴィ、クリュッグ、ボリュー、レイモンドなど家族経営によるブドウ栽培が再開し始めました。我が家のブドウを購入していたワイナリーの1つがロバート・モンダヴィだったので、私は1974年からモンダヴィで働き始めました。次第に収穫期にラボで働くようになり、手がけいれんするほどの書類作成が待っていましたが、分析や試飲などもできました最終的にモンダヴィの醸造専任スタッフとなり、「醸造ディレクター」の肩書がつくまで働きました。自分にとって幸運だったのは、当時のモンダヴィはまだ家族経営で、大企業への法人化を始めたばかりだったということです。いわゆる”モンダヴィ大学"で私は醸造の多くを学びました。モンダヴィを辞めた後も、コンサルタントとしてオーパス・ワンの開発に携わり、シャトー・ムートン・ロートシルトとのジョイントベンチャーの初代醸造家、ルシアン・シオノーとも一緒に仕事をしました。モンダヴィで働いていた時、自分の畑を持とうと思い、オーク・ノルと後にカーネ口スに土地を買い、マッケンジー=ミューラーを興しました。しかし、責任を持ってフルタイムで勤務しながら自分の畑で働くのは荷が大き過ぎると気付き、マッケンジー=ミューラーに集中するため、モンダヴィを離れることにしました。ワインの質を決めるブドウは自分たちでしっかり管理したいと考えていたので最初は小規模でスタートしました。ブドウは他から購入しません。実際自分たちのブドウを他の生産者に売って、自分たちのしたいことをするための資金を確保できるようにしています。ワイナリー◆オーク・ノルと力ーネロスオーク・ノルの最初の畑は1979年から1980年に植え付け、樹齢は少し高く、土壌は深く、灌漑はあまり必要としません。ブドウ樹の根を補強するためドリップ式灌漑を施していますが、土壌の保水性が高いので、樹が水分を必要とする時に限定して使っています。オーク・ノルの畑には当初、カベルネ・フランとソーヴィニョン・ブラン、赤白半分ずつ植えました。収量と品質は年によって異なるので、危機が生じた時に対応できるようリスク分散のためです。後にソーヴィニョン・ブランをカベルネ・ソーヴィニョンに植え替えたので、オーク・ノルの畑は現在、すべて赤品種です。1988年から89年にかけ、ナパ・ヴァレー南端でサン・パブロ湾に近く、ナパより涼しいカーネロスに2つ目の畑を興しました。カーネロスの土壌は浅く、約46cmの表士の下層は重い粘土質なので、ブドウ樹は46cmまでの深さだけで生き残らなければなりません。私たちはここにピノ・ノワール、シャルドネ、カベルネ・ソーヴィニョン、カベルネ・フラン、メルロ、マルベック、プティ・ヴェルド、そして今では造っていませんがピノ・グリージョを植えました。◆樹齢がブドウの風味と品質に与える影響桐齢が高くなるほど、ブドウの品質と個性は高まり、風味のバランスが良くなります。若樹は収星が多く、生産性は高まリますが、醸造段階で平凡なものになる傾向があります。ブドウ樹がどのような状態にあるのか、また土壌がどう影響するか、常日頃、学ぶことは多いです。ブドウ樹が自分の樹齢に対応しているときに、こちらもそれに合わせた剪定栽培を行うことが必要で、ブドウと人間と双方向の営みです。◆信念とそのアプローチワインは畑で造られるもので、ワイナリーはそれを表現するだけ、という思いです。ブドウ樹が最終的に行き着くところまで行くため、自分たちはその手助けをするに過ぎません。そもそも畑にないものからは何も造ることができないからです。使用する樽はすべてフレンチオークで、ワインの濾過は行いません。ワインは樽から樽へ、樽からタンクヘ、再び樽へ戻すという複数の澱引きを繰り返し、望むべきワインの透明度を引き出しています。酵母に関しては、まだ勉強途中です。初期の頃、ピノ・ノワールとシャルドネは自生酵母で発酵させたかったので培養酵母は使いませんでしたが、うまく発酵が進まず問題が生じ、売り物にならないワインになってしまいました。現在はそれぞれの品種にうまく適応する酵母を使用し、自分たちが望むワインのスタイルを造っています。充分風味があり飲みやすいワイン風味の抽出が強すぎて飲み頃になるまでに20年かかるのではなく、そのようなスタイルです。70歳を過ぎても学ぶことは沢山あります。ブドウの収穫は年に一度のチャンスで、その後は次の年まで待たなければなりません。どれだけ試行錯誤を繰り返しても、ワイン造りは年に一度進化していくだけです。もう一つ言えることは、ワインを造るコストがとても高くなってしまったことです。ブドウを栽培しワインを造るということは、安くできることではありませんが、私たちはリーズナブルな価格で素晴らしいワインを造り、できるだけ消にとって理にかなった価格を維持したいと思っています。ワイナリー◆熟成ワインの再リリース私たちは熟成したワインがとても好きなので、セラーを拡張して在庫を増やすことを大切にしてきました。ワインは時間の経過とともに素晴らしく向上するので、どのように変化し、熟成していくかを見ることができます。あるワインの在庫が少なくなり、次のヴィンテージの味が充分落ち着いていれば、年号を切り替えます。つまり常に在庫を沢山持っていなければいけないということです。セラードアの様子◆未来を見据え、ファミリービジネスヘ参画サマンサ:私はワイナリーとブドウ畑で育ちました。私は家を離れて大学に進み、文芸分野を専攻しましたが、2012年からこちらに戻つてフルタイムで働き、毎年ワイナリービジネスについて、多くのことを学んでいます。つまり学校卒業後、ワイナリーに就職したことになリます。ボブ:目標は次世代にビジネスを引き継ぐことです。私の家族は1800年代後半からナパ・ヴァレーに定住し、私が最初にワインメーキングを始めましたが、サマンサがワインメーキングに興味を持っているので、それを今後も家族で続けていくことを願っています。《ヴィレッジ・セラーズより》マッケンジー=ミューラーとヴィレッジ・セラーズとの出会いは同じナパの生産者ヘンドリーからの紹介を通じて始まりました。ヘンドリーとマッケンジー=ミューラーはともに家族代々続くナパのグローワーで、どちらもロバート・モンダヴィと親しく、深い繋がりを持つ間柄でした。15年前に初めてマッケンジー=ミューラーを訪問した時、ボブが穏やかな口調で_つ一つ丁寧にワインを説明していた姿がとても印象的でした。これから娘のサマンサに引き継がれても、将来に亘って素晴らしいワインを日本へ送り続けてくれることと期待しています。《ボブ・ミューラーによる、マッケンジー=ミューラーの品種説明》マルベック: 1988年、カーネロスにマルベックを植えましたが、それはボルースタイルのブレンドワインに色調やニュアンス、個性を補うためです。マルベックはカベルネのブレンドにおいて、味わい全体にシャープさを提供してくれますが、マルベック単体でも十分風味は成り立ちます。当時、これほどュニークな味わいで、タンニンがそれほどなくとも味わいがとても良いので、若い時点から飲みやすいです。カベルネ・ソーヴィニョンは柔らかくなるまで長期間、瓶熟成を必要としますが、マルベックは最初からかなり熟した味わいがありますから、過熟にならないように注意しなければなりません。カベルネ・フランとカベルネ・ソーヴィニョン:カベルネ・フランは芳香性の高い品種で、ハーブの香りがあり(インゲンマメではなく)、フルーティーで食事向きで、我々はカベルネ・ソーヴィニヨンにブレンドします。樽熟成さ也透明感を出すために澱引きしています。カベルネ・ソーヴィニョンはフェノールやタンニンが強く、紫色で力強く、大柄ですが、フランは赤色で味わいにニュアンスがあります。フランとカベルネはどちらも相互補完的で、非常に相性が良いです。メルロ:メルロは映画「サイドウェイズ」の影響でアメリカでは壊滅的な打撃を受けるなど様々なことがありましたが、メルロ、特にカーネロスのメル口は、ナパ地域で最高級のワインが造れると私は思っています。年によっては、多くのカベルネ・ソーヴィニョンよりよほど優れた特別なワインがメルロで造られています。アメリカもそろそろメルロを無視するわけにはいかなくなっています。マッケンジー=ミューラーのメルロの栽培面積は2.4-2.8haで、出来のよい年の生産量は年間300-400ダース、少ない年は50-100ダースのみの生産です。ナパ・ジャズ:「ナパ・ジャズ」はメルロ、カベルネ・フラン、カベルネ・ソーヴィ二ヨンによる特別なブレンドワインです。もっと親しみやすいスタイルを探していた時に生まれたブレンドで、ワインリストから気軽に選んでブレンドワインを楽しむことができればと造り始めました。ラベルはサマンサがデザインしました。このワインには年によりいろいろな即興性があるので「ナパ・ジャズ」と名付けました。それ自体楽しいものです。毎年異なったアロマ、風味、ニュアンスを組み合わせて描いていくのです。ヴィンテージによりブレンドにはバリエーションがありますが、明確なスタイルを備えています。