オレゴン・ワインボードの招待により、オレゴン・ピノ・キャンプ2022(以下、OPC)に参加した。OPCとはオレゴンワインの理解を深めるため、オレゴン・ワインボードとオレゴンの生産者たちが主催する3日間の教育プログラム。今年は海外から約20名、アメリカ国内から200人を超えるワイン産業従事者・関係者が招待され、6月末に開催された。DAY 0: オープニング・レセプションにてプログラム開始前夜、オープニング・レセプションでは150以上のワインが並ぶ。当社が輸入するブルックスではマネージング・ディレクターのジェイニーとワインメーカーのクリスが迎えてくれ、「スパークリング・リースリング・エクステンディット・ティラージュ 2017」と「ピノ・ノワール・ジャナス 2018」を試飲した。スパークリングは、40ヶ月間瓶内二次発酵している。シトラス、牡蠣の殻、ブリオッシュ、豊富な酸、品種個性がありながら長期瓶内熟成によるイースティーな側面も。生産量300ケース。そしてジャナスはブルックスの創設者ジミー・ブルックスが1998年、ワイナリーを設立して最初に造ったフラッグシップワイン。チェリーやプラム、スミレ、シナモンなどのスパイス、果実と酸のバランスがあり、親しみやすい。ローマ神話でジャナス(ヤヌス)は新しい始まり、終わり、未来、過去、出入り口、バランスを司る神であり、ピノ・ノワールの究極の表現。生産量1,200ダース。同じく当社が輸入するジ・アイリー・ヴィンヤーズではオーナー兼ワインメーカーのジェイソンと海外輸出セールス・マネージャーのラスと逢えた。ジ・アイリーと言えば、パパピノの愛称で慕われた故デイヴィッド・レットが1965年、オレゴン、ウィラメット・ヴァレーに初めてブドウの苗木(ピノ・ノワールやシャルドネ)を植えたことで知られるが、それは同時に、アメリカに初めてピノ・グリが植え付けられた瞬間でもあった。この1965年に植えた自根から造られる「ジ゙・アイリー・ヴィンヤーズ・オリジナル・ヴァインズ・ピノ・グリ」の2015(マグナム)と2021を試飲。2015年は花梨、洋梨のコンポート、テクスチャーもしっかり、飲み応えに加え熟成感もあって重層的。2015年は亜硫酸無添加。2021は未入荷だが2015と比較してよりフレッシュで明るく、酸も豊富。そしてピノ・グリと同じ1965年に植えた古樹から造られる「ジ・アイリー・ヴィンヤーズ・ジ・アイリー・ピノ・ノワール2018」も試飲。ワイルドベリー、キノコ、土、エレガントで奥行きのある酸。生産量440ダース。左から ブルックスのジェイニーとクリス、ジ・アイリー・ヴィンヤーズのラス、ジェイソンDAY 1: ワークショップ:「地質」「アスペクト 地形による畑の諸相」 ディナーは“忙しい”さて、プログラム開始。午前中のワークショップのテーマはウィラメット・ヴァレーのピノ・ノワールを語るには欠かせないトピック「地質」。会場となったのは、アイリーと同じダンディー・ヒルズのドメーヌ・セリーヌ。敷地の中では少し低く緩やかな東向き斜面の地形と断層が見られる場所へ移動し、1,500万年前の玄武岩を主とした「火山性玄武岩土壌(=ジョリー・ローム)」の断層の説明を受ける。およそ1,500万年前に始まった太平洋プレートと北米プレートの衝突により海底が隆起、これにより海岸山脈(コースト・レンジ)とカスケード山脈が形成された。カスケード山脈東側での噴火により流れ込んだ溶岩(火山性玄武岩)は深さ100mに達し、ウィラメット・ヴァレーの表層を覆っている。その後1万8,000年~1万5,000年前、内陸のモンタナ州ミズーラ付近で氷河が溶け、幾度となく発生した洪水のためコロンビア川流域には大量の土砂が運ばれてきた。こうして積み重なった地層が継続するプレートの衝突により、徐々に向きを変えて表層に現れ、ウィラメット・ヴァレーの複雑な土壌となった。次に実際にブドウが植えられている畑に移動。畝間に1.8mほどの深さの穴が掘ってあり、表層から母岩へ根が達する様子を見ることができた。根がこの母岩に達さないと、ブドウは土壌の個性を表現できないという。続いて同じダンディー・ヒルズの北東に位置するランゲ・エステートへ。ブッフェ形式のランチをとり、午後は、ワークショップ「センス・オブ・プレイス(その場所らしさ)」。ピノ・ノワールを3つのフライトで比較試飲する。フライト1の目的は、それぞれの土壌由来によるキャラクターを体験すること。ウィラメット・ヴァレーの主要な土壌である①火山性玄武岩、②海洋性堆積土壌、③風で運ばれてきた黄土(レス)で栽培されたピノ・ノワールをそれぞれ2種類ずつブラインド試飲。フライト2でフォーカスするのは“アスペクト”。前述の通り、ウィラメット・ヴァレーの地形は隆起や噴火、洪水などによる非常に複雑な起伏があり、低地では春先に霜害、標高300m以上では十分に熟さない。畑の傾斜や方角の違いが日照と気温にどのように影響し、風が果皮の厚みにどう影響するかを比較試飲。フライト3では、造り手である3人のパネリスト自身が、異なる畑のブドウを同じ条件で醸造したワインをペアで紹介し、土壌、標高や方角、マイクロクライメットの影響を比較試飲する。非常に充実したワークショップだった。一旦ホテルに戻り、夕食の会場では前夜同様150-200種類のワインが並ぶプレディナー・テイスティングが90分。ワイナリー横の広場に設営されたテントで3皿からなるコースディナー。各テーブルにもワインはあるが、それとは別にディナーが始まると生産者たちは会場を歩きながら自慢のミュージアム・ストック(バックヴィンテージやマグナム等)を惜しみなく振る舞ってくれる。次から次へと飲んではグラスを開けなくてはならないので忙しい。食事を終えると参加者たちはワイングラスを片手に海岸山脈に沈む夕陽を眺めながら、それぞれの時間を過ごした。DAY 2:ワークショップ:「 生物 生命の本質と多様性」そして、オレゴンらしさ午前中は畑で「生物」のワークショップを行い、ピノ・グリ、シャルドネ、スパークリングをブラインドで比較試飲。午後は、土壌、立地、ヴィンテージ、醸造という要素の違いがどのようなワインを生み出すか、ピノ・ノワールの比較試飲を通してディスカッション。どれも“違い”を多角的に考える必要があり、一概に、こういう条件においてはこうなる、とは言い切れない。しかし、不思議とどのワインを飲んでも一貫したオレゴンらしさを感じることができた。言葉にすることは容易でないのだが、特にピノ・ノワールはブルゴーニュやニュージーランドなど他国のそれとは似て非なるものである。土壌、アスペクト、海と内陸双方からの風、これらの影響を受けながらオレゴニアンが造るワインは唯一無二とまさに身をもって感じた。魅力的で、そして数えきれないほどのワインに酔いしれた3日間だった。ディナーでは、念願のサーモン・ベイクを体験!(たき火で鮭の半身を焼く、先住民の慣習に由来したオレゴンの名物料理で、OPCの名物)