各国ワイン生産者も多く訪れるレストラン&ワインバーCONEXTION。オーナーの藤次洋貴氏は、生産者とのつながりを大切にワインに真剣勝負で向き合っています。今秋、藤次氏と元ジャーナリストで現在ワイン造りに邁進する佐藤吉司氏、オレゴン・ピノ・ノワールに魅了されたお二人の対談を企画していましたが、実現は来年に。代わりに藤次氏が寄稿、森枝卓士氏の写真とともに貴重な経験を共有させていただくこととなりました。来年の対談が一層楽しみです。パパピノ? いや違うと思う初めてジ・アイリー・ヴィンヤーズを知ったのは2005年。このワイナリーがデイヴィッド・レット氏によるもので『 オレゴンピノの父』と呼ばれているらしいということは、既に耳に入っておりました。デイヴィッド・レット氏が、 周りからは反対されながらもこれこそがピノ・ノワールに相応しい土地だという信念を持って、ダンディ・ヒルズの赤土の丘の南斜面(South Block)に初めて葡萄の木を植えたのは1965年の2月22日。それから14年後の1979年、フランスの雑誌が世界各国のピノ・ノワールを集めワインオリンピックなるものが開催され、そこでこの畑から造られた「ジ・アイリー・サウスブロック・リザーヴ・ピノ・ノワール 1975」が10位に入賞。 翌年フランスのJ.ドルーアン主催のブラインドで今度は2位に。 結果、このフランスの名門がオレゴンに進出することになり世間がオレゴンに注目、さらにクリントン大統領が仏シラク大統領を招いたホワイトハウスでの晩餐会に、 このドルーアン・オレゴンが供され、世界にオレゴンのワインというものが広まる結果となったわけです。これら一連の流れの発端となったデイヴィッド・レット氏が『オレゴンピノの父』として慕われているのも当然のことでしょう。2005年、計1,350名(そのうち生産者は140名)が一堂に会し数日間にわたり開催される世界最大のピノノワールの祭典「インターナショナル・ピノ・ノワール・セレブレーション(IPNC:International Pinot Noir Celebration)」に私はソムリエチームの一員として参加する機会に恵まれました。2005年オレゴン IPNCでの藤次氏 (右から2人目)最終日のまさにファイナルランチでサービスを行っていた際、 急に会場がどよめきます。 会場全員が建物の入口の方を見ているのでそこに目をやると 車椅子に乗られた一人のご高齢の方の姿が。ちょうどその人の後ろからはまぶしい外の光が差し込み、神々しい雰囲気すら漂っていました。すると現地ソムリエチームの一人が興奮しながら走ってきて 「ヒロキ!彼が誰か知っているかい!デイヴィッド・レット氏だよ!伝説の人だよ!これは奇跡だよ!」とサービスそっちのけで舞い上がっています。 他のソムリエ仲間達を見ても同じ様子。 そして会場に入ってくるとそのランチ中の1,000人が一斉にスタンディングオベーションで迎えたのです。ジ・アイリー・ヴィンヤーズ創設者 デイヴィッド・レット氏その光景はオレゴンピノの父なんかではなく、 まさにオレゴンワインの神様のような存在でした。 そんな神様が座った席は何と自分の担当テーブル。あれほど興奮しながらソムリエの仕事をしたのは後にも先にもないでしょう。 そしてその3年後、デイヴィッド・レット氏が他界されました。 私にとって忘れ得ない思い出です。デイヴィッド・レット氏と (2005年オレゴン、 IPNCにて)次にそのIPNCに参加したのは2012年、私の席に若きワインメーカーがやってきてくれました。 そのワインメーカーの名前はジェイソン・レット氏。彼独自のシリーズであるブラックキャップからはこれまでのアイリーにはない力強さが感じられたのを覚えています。その後、日本でも一緒に食事をする機会にも恵まれ、その時一緒に飲んだのがダフニーの2009年。 デイヴィッド・レッド氏の意志を受け継ぎながらジェイソン・レッド氏の新しい感性が見事に融合した素晴らしさが しっかりと伝わる味わいでした。 またピノ・ノワール以外に2012年に植えたトゥルソー これが近年リリースされており、ジェイソンらしい新たなチャレンジがこれからも楽しみです。*ランチは大学のキャンパスで。IPNCは、オレゴン州のワイン関係者などによるグループが1987年から毎夏主催。試飲やシンポジウム、畑の訪問などを通じ、世界各国のピノ・ノワール生産者とソムリエや料理人、ジャーナリスト、食を愛する人々の交流の場となっている。藤次 洋貴氏 Mr. Hiroki FujitsuguJ.S.A. 認定シニア・ソムリエCONEXTION/ コネクション オーナーソムリエザ・リッツカールトン大阪でソムリエを務めた後、2軒の飲食店のマネージャーを経て、2012年より現在のレストラン&ワインバーCONEXTIONを開業。お客様にワインを愉しんでいただける空間を提供する傍ら、アカデミー・デュ・ヴァンで講師も務める。第1回のオレゴン・ワイン・プロモーションで優秀店に選ばれ、2005年のIPNCに参加、以後10回近くオレゴンに足を運び、また現地の生産者も頻繁に来店するなど親交を深め、強い絆で結ばれている。文中の写真:森枝 卓士氏