FRANCIS d’ARENBERG OSBORN 27 December 1926 ‒ 16 December 20222022年12月16日、「ダリー」の愛称で親しまれてきたフランシス・ダーレンベルグ(ダリー)・オズボーンがその日、95歳で亡くなったという知らせが、南オーストラリア州マクラーレン・ヴェイルのダーレンベルグより届きました。ダリーは、オーストラリアワイン産業界を代表する重鎮で、長年自社のみならず業界全体の発展に貢献。その功績に対して「オーストラリア勲章(the Order of Australia)」、英エリザベス2世の「クイーンズ・ジュビリー・メダル(the Queen’s Jubilee Medal)」をはじめとする数々の勲章を授与され、また様々なワイン団体の終身名誉会員に名を連ねてきました。ただ、ダリーについて記す上で最も大切なことは、彼が家族・友人だけではなく、周囲の人たちに対してとても愛情深く、気取らず、威張ることもなく、素晴らしいユーモアに溢れ、親交のあった誰からも愛されていたことと言えるでしょう。ダーレンベルグは1912年、実業家であり名馬を数多く有する厩舎を営んでいたダリーの祖父が、それらを売却して購入した土地にブドウを植えたのが始まりで、2023年で創業から111年になります。その間、ダリーはダーレンベルグで70回以上のヴィンテージに携わり、多数のトロフィーやメダルを獲得するワインを生み出し、ワイナリーの土台を築き、ダーレンベルグを世界的にも認められるブランドに育て上げました。彼が生まれた1926年、家族はブドウ栽培・ワイン醸造に携わっていました。ダリー出産時に亡くなってしまった母親の姓「ダーレンベルグ」をミドルネームにもらい受けたダリーは、もともと体が弱かった父の病状悪化に伴い、1943年、16歳で学校を中退し家業を継ぎます。まだトラクターが使われる前の時代で、畑は馬を使って耕し、モーターやポンプの燃料は灯油でした。ゴムタイヤのトラクターを購入するのは1946年、ワイナリーの作業場が電化されるのは1951年です。1943年、16歳のダリー。スクールタイは深紅と白のストライプだった醸造の知識がなかったダリーは試行錯誤を繰り返しながらも実践を通して、そして周囲の人たちに教えてもらいながら醸造を学んでいきます。1957年父のフランクが亡くなり、その2年後の1959年、ダリーは自らのラベルとダーレンベルグの紋章をつくります。目立つ赤いストライプには、中断せざるを得なかった楽しかった学校生活で着用していた赤と白のストライプのネクタイへの思いが込められ、紋章にはラテン語で「ワインは命(Vinum vita est)」と書かれています。1960年代の「バーガンディ」ラベル1960年代、ダリーのワインは愛好家や品評会の審査員の間で熱狂的な支持を獲得します。1969年には、「カベルネ・ソーヴィニヨン1968」がジミー・ワトソン・トロフィーを獲得、グルナッシュ主体の「バーガンディ1967」は、オーストラリア主要各都市のワイン品評会でトロフィー7つ、金メダル29個を獲得しました。60年代から70年代にかけ、ダーレンベルグは大きく事業を展開、ワイナリーやセラードアだけではなく畑も増やしていきます。畑で(1972年)19世紀に造られた油圧式バスケットプレスを中古で購入したのは1963年のことで、以来、現在に至るまで、ダーレンベルグではデイリーワインからアイコンワインまですべてバスケット・プレスで圧搾、またすべての赤ワインは発酵時、足でブドウを潰す伝統製法によって造られています。バスケット・プレス現在も使われているワイナリーのコンクリート製発酵槽1984年、ローズワーシー(現アデレード大学)で応用化学と醸造学を学んだ息子のチェスター・オズボーンが主任醸造家として参画すると、チェスターは品質が高くマクラーレン・ヴェイルを表現するワインの醸造に集中していきます。チェスターが肥料を使わず、灌漑を最低限に抑えることで畑の収量を減らすのを見たダリーは、「畑がダメになる前に売却しなければ・・・」と心配しましたが、結実した果実の質を見て、深く感動したと言います。幸いなことにチェスターは発酵槽での足踏み、バスケット・プレスによる圧搾は理解し、継承しました。2007年、初来日したダリーとチェスターオーガニック認証を受けた後、ダーレンベルグがすべての自社畑と契約畑のバイオダイナミック認証取得を完了するのは2016年です。2017年の12月にはセラードアとレストランを併設した斬新なデザインの「Cube(キューブ)」が完成、今ではマクラーレン・ヴェイルの観光名所になっています。ダーレンベルグは2007年、ダリーの80歳を記念し、世界各地でディナーを開催。同年9月にはチェスターとともに来日を果たしました。試飲会やディナーで元気なダリーにお会いになった方々もいらっしゃると思います。お茶目なダリーが「赤ワインに優雅さを加味するため」、仕込み時に正装してワイナリーで働いていたことは今でも語り草になっています。個人でもグループでも日本からダーレンベルグを訪問すると、いつも笑顔で出迎えてくれたダリー、ありがとうございました。 安らかにお眠りください。1939年、オズボーン・ファミリーの家と畑※ダリーとチェスターによる数々のワインとこれまでの評価は ダーレンベルグWEBサイト で詳しくご覧いただけます。■ワイン紹介#11689ダーレンベルグ・ダリーズ・オリジナル・グルナッシュ・シラーズ S'18d'Arenberg d'Arry's Original Grenache Shiraz S'18産地:南オーストラリア州 / マクラーレン・ヴェイル品種:グルナッシュ56%/シラーズ44%希望小売価格(税別):¥2,500-1959年、レッド・ストライプのデザインが際立つ自身のラベルをつくったダリーは、独創的なローヌ品種ブレンドを「バーガンディ」の名でリリース。しかし、ヨーロッパ市場向けの輸出を開始すると名称変更を余儀なくされ、1993年にリリースした1989年ヴィンテージより「ダリーズ・オリジナル」に改名した。以来、現在までダーレンベルグの歴史を象徴するロングセラー。92pts James Halliday*ワイナリー情報はこちらからご覧いただけます。