2023年9月26日、「コルク&スクリューキャップでの20年熟成比較―オーストラリア5生産者 全15ワイン試飲セミナー」という長いタイトルのセミナーを開催しました。「ワインボトルの栓はコルクが当たり前」の時代を経て、今ではそれぞれの栓の長所・短所が広く認識されつつありますが、実際に栓によってワインの味わいはどのように変わるのか、あるいは本当に変わるのか、それを体験することが目的です。 オーストラリアのワイン生産者は1990年代末、コルクの質に悩まされていました。2000年、南オーストラリア州クレア・ヴァレーの生産者たちがリースリングの瓶詰めに、当時スイスでシャスラに使われていたスクリューキャップを使う決断をすると、その後スクリューキャップは急速に生産者の間に広まります。 早期に切り替えた生産者の一部は、初めの1-2年、同一ワインをコルク栓とスクリューキャップ両方でリリースしました。ヴィレッジ・セラーズでは、そのように二通りの栓を使って瓶詰されたワインを両方輸入し、自社の定温倉庫で長期熟成させることにしました。後々セットで販売する可能性も考えていましたが、正直なところどのように違いが出るのか出ないのか、自分たちでも試みたいという思いがありました。 それから20年以上経過し、すでに各栓6本ずつしか残っていないワインもあります。そこで、せっかくの機会をできるだけ多くの方と共有すべく、6本から適正な量で味をみることのできる最大人数100名を募り、オーストラリアワインにも造詣の深いソムリエ 森覚氏に講師をご快諾いただき、アンダーズ東京を会場として本試飲セミナーの開催に至りました。 試飲ワインは、白2、赤3。各ワイン同一ヴィンテージの栓違いと現行ヴィンテージの3種類、それが5生産者分です。合計90本のワインはセミナー開始2時間半前に抜栓。素早くワインセーヴでアルゴンガスを注入すると同時にピペットで少量を取り出し、森氏は全ボトルのワインを試飲確認します。ボトルは栓をし、ワインは配膳直前のタイミングでグラスに注ぎます。90本のワインのうち、スクリューキャップワインは、現行ヴィンテージは当然のこと、20年経過しても瓶差は全くと言っていいほどありませんでした。しかし、コルク栓のワインについては、白はセラーで透明度の高いボトルを選び出すことができたものの、赤は抜栓せずに中の状態を判断することは困難で、TCAによるコルク臭、過度の酸化は別にしても、瓶差が否めませんでした。 試飲グラスは参加者1名につき15脚。つまり全部で1,500脚以上のグラスにワインを注ぎ、セミナーの流れを遮ることなく、タイムリーに参加者の手元に届けなければなりません。綿密な進行表を作成し、セミナー会場隣の作業スペースでは鬼軍曹さながらの(?)キャプテン統率の元、ホテルとヴィレッジ・セラーズのスタッフが、正確に時を刻む時計のように作業にあたりました。 セミナーの締めくくりに森氏からの総括は、良い状態で熟成したコルク栓のワインは輪郭を形成する酸がより溶け込み、複雑性と甘みを感じる一方、スクリューキャップは、コルク臭の心配がないだけではなく、バランスを保ちながら均一に熟成し、熟成の中にも若さが保たれる。最終的には好みの問題ではあるが、抜栓の効率性、質の均一性を考慮し、サービスの事情やワインの使用状況により検討されるべきだろう、というものでした。そして、スクリューキャップでの熟成の可能性を改めて確信できたが、今の時点でのコルク栓ワインと同じような“色気”が出るには、スクリューキャップワインはあと30年取り置いて、とのリクエストがありました。 セミナー終了後、スクリューキャップワインに接してきた経験の多少に関わらず、参加者の皆さんから「本当に面白い経験だった!!」というとてもたくさんの喜びの声をかけていただいたことは、何よりもうれしいことでした。森氏の全15アイテムの試飲コメントおよび当日の配布資料試飲ワイン一覧 C=コルク栓 / S=スクリューキャップグロセット ポーリッシュヒル・リースリング 2000(C/S)&2022(S 現行)ルーウィン・エステート アート・シリーズ・シャルドネ 2003(C/S)&2019(S 現行)ダーレンベルグ ダリーズ・オリジナル・シラーズ・グルナッシュ 2002(C/S)&2021(S 現行)エルダトン コマンド・シングル・ヴィンヤード・シラーズ 2002(C/S)&2018(S 現行)マウント・ランギ・ギラン ランギ・シラーズ 2003(C/S)&2019(S 現行)